抄録
【はじめに】
脳卒中片麻痺患者の立位バランスは、下肢運動・感覚機能とともに体幹機能が重要といわれている。これまで下肢機能との関係については諸家の報告があるが、体幹はその機能を包括的にとらえる検査法が確立していないこともあり十分に検証されていない。
そこで本研究では、幾つかの体幹機能検査を用いて立位バランスと体幹機能との関係を明らかにし、歩行自立度別にみた両者の関係について検討することを目的とした。
【対象と方法】
対象は検査内容を理解できる発症から1年以内の脳卒中片麻痺患者30名とした。左麻痺16名、右麻痺14名、脳出血13名、脳梗塞17名、平均年齢63.3±12.2歳であった。
立位バランスは、裸足でFunctional Balance Scale(FBS)を測定した。体幹機能は、Trunk Control Test(TCT)、Stroke Impairment Assessment Setの体幹項目(SIAS-t)、体幹逆振り子検査(Test of Active Reversed Pendulum〔TARP〕)を測定した。TARPは、足底を接地した座位で仙骨正中位の垂線と肩峰までの距離の7/8の位置に、左右それぞれに体幹を傾けて肩が台に触れた回数を実測値とする評価法である。また、基本属性(性別、年齢、発症部位、発症から検査までの期間)と歩行自立度、下肢運動・感覚機能を調査した。
解析はFBSと体幹機能検査との相関を比較し、さらに歩行自立度ごとに体幹機能が立位バランスに及ぼす影響の違いを検討した。統計にはスピアマンの順位相関係数を用い、危険率5%未満を有意水準とした。
【結果と考察】
FBSは、TARP(r=.767)、SIAS-t(r=.526)、TCT(r=.487)と有意な正の相関関係を認めた(p<0.05)。なお、TCTとSIAS-tは比較的容易な基準であるため、対象者のうちTCTでは80%、SIAS-tでは47%が満点となる天井効果がみられた。
歩行自立度からFBSの得点を30点未満(介助歩行群)、30点~45点未満(監視歩行群)、45点以上(自立歩行群)の3群に分類することが出来た。FBS重症度とTARPとの相関を比較すると、 FBS45点未満ではr=.690(p<.05)であるのに対して、FBS45点以上ではr=.026(P>.05)となった。このことは、歩行が自立するまでの段階では立位バランスに体幹機能が及ぼす影響が大きいものと考えられる。一方、自立歩行が獲得されている例では体幹機能と立位バランスが一義的な関係にあるのではなく、下肢運動・感覚機能や発症からの期間、年齢等が相互に影響しているものと推察された。
【結論】
立位バランスと体幹機能の間には密接な関係が認められ、とくに歩行非自立群の立位バランスに体幹機能の及ぼす影響が大きかった。