抄録
【はじめに】体幹機能の簡便かつ定量的な検査法として、我々は2002年に体幹逆振り子検査(Test of active reversed pendulum:以下TARP)を開発し、その信頼性と妥当性が高いことを報告した。本研究では、TARPと脳卒中片麻痺患者の歩行機能との関係について検証し、TARPの臨床的有用性を明らかにすることを目的とした。
【対象・方法】H会で医療保険または介護保険下で理学療法を実施している者のなかで、研究内容を説明し同意の得られた80名の脳卒中片麻痺患者を対象とした(男:46,女:34、平均年齢66.2±9.6、右麻痺46・左麻痺34)。検査課題は、TARP、Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)の下肢運動機能・感覚機能・体幹機能、下肢Brunnstrom stage、Timed “Up and Go” Test(TUG:5mの最速歩行所要時間)とした。
解析は、TARPと他の検査課題との比較とともに、発症からの時期の違いによるTARPとTUGとの関係について検討した。
【結果】全検査課題で麻痺側の違いによる有意な機能差はみられなかった。歩行が近監視以上で可能な群と不能な群との比較では、TARPの回数が各々21.4±9.5、10.6±6.1とSIASの下肢・体幹機能ともに有意な差を認めた(p<0.01)。TARP とTUGとはr=-.539と有意な相関(p<0.01)を示した。また、発症から9ヶ月以内(回復期群と定義)と18ヶ月以上(維持期群と定義)の病期による比較ではTARPの回数が各々17.9±10.7、19.2±8.7で、これを含め全検査課題に有意な機能差はみられなかったが、TARPとTUGとの相関係数は維持期群で高かった。TUGを目的変数にして他の測定項目を説明変数としてStepwise重回帰分析(変数増加法)をおこなったところ、TARPとSIASの下肢運動機能が採択された(r=-.603,p<0.01)。
【考察】脳卒中片麻痺患者においてTARPで計測する左右へ体幹を傾ける機能は歩行と有意な相関があり、体幹機能は歩行の獲得に必要な要素であると考えられる。TARPは回復期から維持期を通して脳卒中片麻痺患者の体幹機能を簡便かつ定量的に計測できる指標であった。また、体幹機能と歩行機能との関係は病期により異なることから、下肢機能と体幹機能の改善とそれが歩行に及ぼす影響は時間経過で異なる可能性が示唆された。以上の結果から、TARPは脳卒中片麻痺患者の体幹機能評価において臨床的有用であると示唆された。