抄録
【はじめに】中枢神経疾患に対する運動機能の評価では、パフォーマンス測定が理想とされる。標準化されたパフォーマンス評価指標の一つに10m歩行速度の測定がある。しかし、他の運動機能の評価指標については、一般的に利用されているものは必ずしも多くない。本研究では、脳卒中片麻痺患者を対象に反復起立動作によるパフォーマンスを実施し、その結果と、下肢筋力ならびに歩行能力との関係について検討した。
【対象と方法】対象は脳卒中片麻痺患者44名(全員男性)で、平均年齢:65±6.9歳、発症からの期間:55.1±76.1ヵ月であった。対象者の条件は、近位監視レベル以上で10m歩行可能なこととした。対象者には、事前に研究の主旨を説明し、同意を得た。測定項目は左右の膝関節伸展筋力(Knee Extension Strength:以下、KES)、10秒間最大反復起立動作の回数(以下、起立回数)、10m最大歩行所要時間(以下、歩行所要時間)であった。また、対象者を歩行実用度で分類し、KES、起立回数、歩行所要時間との関連について検討した。KES測定はHand-Held Dynamometer(以下、HHD)を使用し、非麻痺側、麻痺側について測定した値を体重で除し、体重比を算出した。測定肢位は、プラットホーム端での端坐位(下腿下垂位)とし、HHDは、プラットホーム支柱にベルトで固定した。起立回数は膝関節が90°となるよう座面の高さを調節した台で、端坐位から立ち上がり、再び端坐位に戻るまでを1回とし、起立の際には上肢の使用を禁止した。また、歩行実用度の分類は(1)歩行実用者、(2)歩行、車椅子併用者、(3)非歩行実用者とした。
【結果、考察】全対象者でKES、起立回数、歩行所要時間の各項目間には、有意な相関関係が認められた(p<0.05)。歩行実用度と起立回数の関係をみると、起立回数が5回以上可能なものは、全員歩行実用者であったことから、全対象者を起立回数毎に5回以上群(以下A群):10名、1~4回群(以下B群):24名、起立0回群(以下C群):10名の3群に分類したところ、一元配置分散分析より、3群間でKES、歩行所要時間に有意差が認められた(p<0.05)。また、起立回数の結果から、日常における移動手段が「歩行、車椅子併用者」、「非歩行実用者」を分類することはできなかった。A、B、C群についてKES、歩行所要時間のカットオフ(以下、CF)値を決定したところ、A群-B群間では、歩行所要時間が有効な判定基準となり、歩行所要時間:8.0(sec)がCF値となった。一方、B群-C群間のCFでは、KESおよび歩行所要時間ともに有効な判定基準となり、非麻痺側KES:1.07(Nm/kg)、麻痺側KES:0.44(Nm/kg)、両側KES(左右KES合計):1.41(Nm/kg)、歩行所要時間:23.0(sec) がCF値となった。以上より、有効と判断されたCF値は各群を分類する指標になり得ると考えられた。さらに、下肢筋力の低い者では、高い筋力を有する者に比べ、起立動作のパフォーマンスは、より筋力に依存することが判明した。