抄録
【はじめに】片麻痺患者において、片肘立ち位を経由したパターンでの起き上がり動作の円滑な遂行は、引き続いての姿勢保持や起居移動動作につながる重要課題である。障害が重症であることや障害発生後の経年的変化によって、円滑な起き上がり動作が阻害されベッド柵を使用するに至り、介助を要する場合もある。今回我々は、起き上がり動作が自立している片麻痺患者を対象に、ベッド端の把持を必要としない者と必要とする者とで、起き上がり動作時間を比較し、動作の円滑性を阻害する身体機能・能力を検討した。
【対象と方法】対象は、起き上がり動作が自立している片麻痺患者21例である。このうち、起き上がりにベッド端の把持が不要な者は14例、必要な者は7例であった。各群の年齢、発症後経過期間はそれぞれ60.9±10.5歳と72.0±8.7歳、6.4±8.1ヶ月と10.0±10.4ヶ月であった。ベッド端の把持が不要な群よりも必要な群の方が高齢であった以外は、性別、BMI、診断名、麻痺側、発症後ならびにPT開始後の期間に有意な差はなかった。この対象者の起き上がり動作時間ならびに身体機能・能力の測定を行った。身体機能・能力の測定項目は、上下肢Br-stage、NTP stage、感覚、筋緊張、体幹回旋ROM、肩甲帯弛緩性、体幹回旋筋MMT、非麻痺側上肢筋力、静的ならびに動的坐位バランス、静的ならびに動的片肘立ち位バランスである。2群間の比較のために、t検定とχ2検定を用いた。
【結果】起き上がり動作時間は、把持が不要な群の4.7±1.9秒よりも必要な群の9.8±4.0秒の方が有意に長かった(p<0.05)。身体機能・能力は、把持が不要な群でNTP stageが高く(p<0.01)、筋緊張が正常な者が多く(p<0.05)、非麻痺側への体幹回旋筋MMTが5の者が多かった(p<0.05)。それ以外の項目には群間差を認めなかった。
【考察】起き上がり動作が自立している片麻痺患者において、ベッド端を把持する者は、起き上がり動作に時間を要しており、円滑性が阻害されていることが明らかとなった。身体機能・能力の項目では、NTP stage、筋緊張、体幹回旋筋MMTが低下している、または異常な者が多かった。筋緊張は全身の状況で判定したが、肩甲帯弛緩性には群間差がなかったため体幹の筋緊張の状態が起き上がり動作の円滑性に影響しているものと考えられた。NTP stageは頸・体幹・骨盤の運動機能を測定するものであり、体幹の麻痺の程度や体幹の筋緊張、体幹回旋筋力といった体幹部分の機能異常や能力低下が、起き上がり動作にベッド端の把持を必要とさせる要因であることが示唆された。高齢であることの影響も示されたが、理学療法施行上、ベッド端の把持を必要としない円滑な起き上がり動作の能力を獲得・維持するためには、体幹へのアプローチが重要であると推察された。