理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 28
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骨・関節系理学療法
変形性膝関節症患者の歩行分析
立脚中期の膝関節外反モーメントの増加について
*石井 慎一郎岡本 連三鶴見 隆正石井 美和子赤木 家康
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抄録
【目的】変形性膝関節症(以下OA)の歩行では、立脚中期の膝関節外反モーメントが健常者と比べて増加する.これは,立脚初期に膝関節が外側へ変位することによるレバーアームの増大が原因と考えられている.一方,OAの歩行中の床反力は,内向き反力が増加する傾向にある.内向き反力の増加も膝関節の外反モーメントを増加させる原因となる.しかし,そのメカニズムは分かっていない.本研究の目的はOAの内向き反力が増加する原因を明らかにすることである.
【方法】対象はOA患者10名(年齢56~74歳,平均68.2歳)とした.また、コントロール群は健常者10名(年齢19歳~42歳,平均24.6歳)とした.被験者の体表面上にマーカを装着し、三次元動作解析システム(VICON MOTION SYSTEMS社製 VICON612、AMTI社製床反力計)による歩行分析を行った。得られたデータから、内向き反力の増減と関係の深い,(1)身体重心(COG)と床反力作用点(COP)の左右方向距離,(2)股関節内外転角度,(3)股関節内外転モーメントを算出し、OAと健常者との比較を行った.
【結果】(1)COGとCOPの左右方向距離:健常者の平均は立脚初期 63±12mm,立脚中期29±8mm,立脚後期72±23mmであった.OAでは,立脚初期47±30mm,立脚中期70±22mm,立脚後期60±31mmであった.(2)股関節内外転角度:健常者は立脚初期内転2±1.5°,立脚中期内転10±3°,立脚後期0±3.2°であった.OAでは,立脚初期外転4±3.3°,立脚中期内転14±4.2°,立脚後期外転2±1.1°であった.(3)股関節モーメント:立脚初期と後期に極値を持つ2峰性の波形を示し,立脚初期の極値は平均0.9±0.2Nm/kg 立脚後期は1.1±0.3Nm/kg であった. OAでは立脚初期0.8±0.4Nm/kg 立脚後期0.7±0.1Nm/kg と立脚後期の極値が小さくなる傾向にあった.この傾向は両側の股関節に共通の結果であった.
【考察】内向き反力はCOGの内向きの加速度を反映している.健常者で立脚中期において内向き反力が減少するのは,COGが支持脚側へ移動してCOPとCOGの位置関係が前額面内において接近するからである.COGを支持脚の上へ配列させるためには,反対側の立脚後期の股関節外転モーメントによって,踵接地した支持脚側へ身体重心を押し出さなくてはならない.しかし,OAの立脚後期の股関節外転モーメントは,健常者と比べて非常に少なくなっていた.このため,COGを踵接地後の支持脚の上へ配列されることができないと考えられる.したがって,OAにおいて内向き反力が減少しないのは,反対側立脚後期の股関節外転モーメントの不足により,支持脚上にCOGを移動仕切れないからだと言える.
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© 2004 日本理学療法士協会
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