抄録
【目的】臨床現場では骨関節系の障害や中枢性疾患などによって生じた異常歩行や、高齢者の歩行を定量化する方法を必要としている。Anvinet(2002)らは重心移動を加速度計によって測定するという新たな歩行分析の方法を報告しており、我々も同様の手法により加速度計による歩行解析を行った。加速度計による歩行分析では歩幅や歩行率に加えて歩行のリズムや動揺性なども測定可能である。今回は臨床歩行分析の予備研究として健常成人の歩行を3軸加速度計によって測定し、種々の解析を行いその有効性について検討し、歩行速度の変化に伴う加速度信号を調べた。
【対象と方法】対象は健常者20名(男性15名、女性5名、年齢25.6±5.5歳)とした。加速度測定には3軸加速度センサーを用い、これを重心移動を反映するとされる第3-4腰椎部に固定した。歩行速度を一定にするためトレッドミル上で2.1、2.7km/hの2通りの速度での歩行時加速度を計測した。サンプリング周波数は200Hzとし、加速度信号はコンピューターに取り込み処理した。なお歩行周期を同定するためデジタルビデオカメラを併用した。得られたX(側方成分)、Y(垂直成分)、Z(前後成分)からなる3軸の加速度データはフーリエ変換を用いた周波数解析、及びZ軸成分のみ一次積分による速度への変換を行った(以下、前後速度)。周波数解析後のデータからは3-10、10-20、20-60Hz領域におけるの積分値を求めた。前後速度からは、加速に要した時間と振幅(単脚支持期)より加速スロープを、減速に要した時間と振幅(両脚支持期)より減速スロープを求めた。それぞれのデータの信頼性を検討するために変動係数(CV:標準偏差/平均値×100)を求め、さらに2.1km/hと2.7km/hとの比較をWillcoxon符号付順位検定で行った。有意水準は5%とした。
【結果および考察】周波数解析後の積分値3-10Hz領域では、3軸成分・各歩行速度ともに被験者間での分散は小さかった(CV=22.3-30.5%)、しかし10-20、20-60Hz領域では分散は大きかった(CV=41.6-51.4%)。加速・減速スロープでは分散は小さかった(CV=19.2-37.4%)。歩行速度の違いによる検討では、3-10Hz領域のX軸成分で有意な上昇がみられたが(p=0.04)、他の軸成分および周波数領域に有意な差は認めなかった。前後速度では加速スロープは有意に増加し(p<0.01)、減速スロープは差を認めなかった(p=0.69)。以上より、被験者間での分散が小さかった3-10Hz領域における積分値と、加速・減速スロープは異常歩行と比較が可能なパラメーターであることが示唆された。また健常成人では歩行速度の上昇に伴い、単脚支持期における推進力が増大する反面、側方への動揺も増大することが示唆された。