抄録
【目的】
大振り歩行は、松葉杖やエルボークラッチを両側に用いることで実現可能な移動様式であり、下肢外傷例や対麻痺者に応用されている。しかし、完全対麻痺者では、エクササイズとして用いられることがあっても転倒リスクやエネルギー消費量が高いため、実用性が低かった。近年、欧米で機能的電気刺激(FES)を用いた大振り歩行再建の報告がみられるようになったが、再建に必要な基礎データの報告はまだ少ない。われわれは、完全対麻痺者のFESを用いた大振り歩行再建に必要な基礎データを得るために、健常人における松葉杖大振り歩行の動作分析を行った。
【対象および方法】
対象は健常成人男性12名で、平均年齢32歳、平均身長172.9cm、平均体重67.8kgであった。
歩行動作分析には3次元自動座標計測システムPeak Motusを用いた。標点位置を被検者の肩峰、肘頭、大転子、膝関節外側、足関節外果、第5中足骨骨頭外側および松葉杖先端とし、約5mの計測用歩行路を大振り歩行した時のこれらの経時的推移をサンプリング周波数60Hzで記録した。後にStick pictureを作成して一連の動作を観察し、股・膝関節角度の変位を測定した。
【結果】
歩行周期のcrutch-strike、toe-off、heel-strike、crutch-off、crutch-strikeという特徴的時点の同定が可能であり、さらに杖荷重期、振り出し期、押し出し期、遊杖期の4つに位相分類できた。
1歩行周期中の関節最大屈曲角度は、股関節が平均41.4 ± 9.6度、膝関節が56.7 ± 12.0度であった。
【考察】
対麻痺者における大振り歩行は、交互歩行よりも移動速度の点で勝るため、エネルギーコストが低い例が多い。完全対麻痺者においても大振り歩行は狭い屋内や段差など車椅子では不便な環境における補助的手段になり得る一方、平地の長距離移動においては、車椅子が安全性・利便性・エネルギー消費量の点で現実的である。また、起立歩行動作による関節拘縮予防や筋萎縮改善など廃用変化の予防改善効果、さらには車椅子から離れることによる生活空間の拡大がもたらす心理的効果も期待され、完全対麻痺者に対するFESを用いた大振り歩行再建は意義があると思われる。
本研究の下肢装具を用いない松葉杖大振り歩行の動作分析の結果、関節角度で歩行周期を同定できたことは、角度センサーなどの情報をFES刺激パターンのトリガーとして利用できる可能性を示唆する。
今後さらに大振り歩行を分析し、モデル計算法を用いるなどして完全対麻痺者における大振り歩行の実現可能性や妥当性を検証し、FESを用いた大振り歩行の実用化に取り組んでいきたい。
【まとめ】
今回の結果は、各関節トルクやエネルギー消費量を求めるための基礎データとなる。今後、FESによる臨床的な大振り歩行再建を進めていきたい。