抄録
【はじめに】投球動作において投球動作開始からトップポジションまでにいたる運動は、加速期以降の準備段階として捉えられ、投球動作全体の中でも重要な相であると考える。今回、我々はこのトップポジションまでの動作を骨盤、体幹、肩甲帯の動きに着目し分析したので報告する。
【対象】対象は本研究の主旨に同意し協力の得られた右投げの投手で、投球時に肩関節に愁訴がない投手(20歳:以下A)と、投球時に肩関節に愁訴を認め、当院整形外科を受診した投手2名(17歳:以下B/33歳:以下C)であった。
【方法】対象動作は、非投球側下肢が最高位に達したところからトップポジション(以下TOP)までの動作とし、4台のハイスピードカメラ(60Hz)にて撮影した。その画像をPeak社製3次元動作解析装置Motusにて解析した。調査項目は、胸骨柄とC7を結ぶ線分と左右大転子の線分とがなす体幹での回旋角度(以下TR)と、左右の肩峰と左右の大転子とがなす肩甲骨の動きを含めた回旋角度(以下STR)とし、運動中の変化とTOPでの値を調査した。なお、値は投球方向に平行な線を基準とし、時計回りの値を負、反時計回りを正とし表示した。
【結果】動作中におけるTR,STRの変化はそれぞれ異なっていたが、TOPにおける値、特にTRは全例、正の値となっており、A:18.7度、B:29.1度、C:22.4度であった。STRの値はAのみ-11.9度と負の値を示し、他の2例は正の値となっており、B:18.5度、C:5.3度であった。
【考察】これまでの先行研究からTOPは踏み出した足が着地するフットプラントに一致し、肩甲骨を含めた回旋角度(STR)は健常者の場合-26度であることが報告されている。今回の結果から投球時に肩関節に愁訴がない被検者AのSTRは負の値を示し、若干異なるものの先行研究に近似し、他の肩関節痛を有する症例は2例とも正の値となっており、先行の研究を確認する結果となった。しかし、肩甲骨の運動を含めないTRに関しては、全例、正の値となっており、肩痛のない被験者Aも、実際には体幹は投球方向へ運動が行われている結果となっていた。これは、体幹と肩甲骨の間に運動連鎖の準備がなされているものと推察される。これに対し、肩痛を有する2例は、TRの軌跡とSTRの軌跡が近似しており、体幹から肩甲骨への運動伝達が破綻している結果と推察される。これまでは、体幹の回旋がフットプラントまで十分に維持されていなくてはならないとの見解が一般的であるが今回の結果から、体幹の運動は先行しておきており、肩甲骨の運動に注意が必要であることが示唆された。今回は被験者が少なく言及できないが今後症例を増やし更に検証してゆく。