理学療法学Supplement
Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 789
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骨・関節系理学療法
投球フォーム指導前後の変化
肘下がりに着目して
*渡邉 寛治川崎 秀和下川 円鵜飼 啓史内藤 浩一
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抄録
【目的】投球フォームは、個性があり、決して画一的ではないが、個性の許容範囲を逸脱した投球フォームを繰り返すことで投球障害を発生する要因となる。当院では投球障害を有する野球選手の疼痛が消失し、投球可能になると、投球フォーム指導を行っている。投球フォーム指導は、日本臨床スポーツ医学会整形外科学術部編の野球障害予防ガイドラインに沿って、投球フォームチェックリストを作成し、実施している。しかし、指導前後で改善しない項目があることから、身体的な評価と併せて行う必要があると第13回日本臨床スポーツ医学会学術集会にて報告した。今回我々は、投球フォーム指導で多く指摘されるいわゆる「肘下がり」に着目し、指導前後で投球フォームの変化を、三次元動作解析にて検討した。
【対象】中学生野球部員20名、全例オーバースローだった。測定時、投球に支障がある外傷、障害を有する者はいなかった。
【方法】被験者は数回投球し、最も納得したフォームについて三次元動作解析を行った。その後、肘の位置を上げるよう指導し、再び数回投球し、最も納得したフォームについて三次元動作解析を行った。三次元動作解析は、被験者に赤外線反射マーカーを装着し、アニマ社製赤外線カメラ6台にて同時に撮影し、アニマ社製ローカスMA-2000に取り込んだ。ローカスMA-2000では、画像から得られたポイントをDLT法にて三次元座標に変換し、解析した。解析項目は、early cocking での投球側肩関節水平伸展角及び外転角(肩の開き及び肘の高さ)、late cocking での肩関節外転角(肘の高さ)と体幹傾斜、投球中のステップ膝の方向、肩、肘、手の速度とし、指導前後で比較した。また、被験者の肩関節可動域を測定した。肩甲骨は、第7胸椎棘突起から両側肩甲骨下角までの距離を、安静水平伸展0度と90度で測定し、0度での測定値に対する90度での測定値を変位率として算出した。
【結果及び考察】投球時の肘の位置は、両肩を結ぶ線より上方あることが好ましいとされている。指導後に肘の位置が上がったが、適正な位置まで上がった選手は少なかった。また、肘の位置が改善されなかった選手は、体幹が被投球側に倒れ、ステップ膝が被投球側に向く傾向があった。肩甲骨の変位率では、肘の位置が改善されなかった選手のほうが高い傾向にあった。今回、肘を上げるという指導が、即効的に改善を見なかった。改善の無かった選手は指導前よりフォームが崩れる傾向にあった。また、肩関節可動域の低下や肩甲骨の変位率が高いことから、quadrilateral space などの柔軟性が低下していることが推測される。そのため、肘を高くできず、体幹やステップ膝等に影響を与えたと考えられる。投球フォーム指導は、肩甲帯の柔軟性のように身体機能も考慮して行われるべきであり、スポーツ現場への啓蒙が必要である。
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© 2004 日本理学療法士協会
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