抄録
【目的】腹部大動脈領域での動脈閉塞病変としてルーリッシュ症候群があるが、今回は下肢動脈に有意狭窄を認めず限局的な石灰化病変による腹部大動脈の狭窄により重症跛行を呈した症例を経験したので報告する。
【症例】51歳男性。診断名:腹部大動脈狭窄。
既往歴:血液透析(1991.12)・狭心症・冠動脈バイパス術(1995.3)。理学所見:後脛骨動脈触知不可。足部の冷感・疼痛なし。検査所見:下肢血管造影による有意狭窄は認めず、CTにて腹部大動脈に90%の有意狭窄を認めた。現病歴:3年前より両下肢にIC出現。1年前には最大跛行距離は100mに減少した。(fontaine分類IIb)2003.10/14手術目的にて当院入院となった。
【経過】10/16、ICの評価として歩行負荷(1.2km/h、傾斜12%、5分間)経皮的酸素分圧(TCPO2)(mmHg)を測定した。TCPO2は、住友ハイテックス社製PO-850 経皮血ガスモニターを使用し、安静時・負荷終了時(終了時)および負荷終了後座位にて安静時値に回復するまでの時間を観察した。測定部位は立位にて床から20cm上方の両腓腹部にプローブを装着した。最大跛行距離は40m。歩行負荷TCPO2の安静および終了時は右52→16。左48→0。負荷終了後5分経過しても安静時の値に回復しなかった。上腕足関節血圧比(ABPI)は右0.6左0.63。10/20、右腋窩―両大腿動脈バイパス術施行。術直後より下肢動脈の拍動触知。10/22、ICが生じるまでの歩行トレーニングを監視下にて開始。10/24、術前同様の歩行負荷TCPO2は、右60→50。左63→53。負荷終了2分にて安静時値に回復した。術後ABPIは右0.9左1.1。11/5、自宅退院。退院時にはICは消失したが、胸痛により600mの歩行制限を認めたため心肺運動負荷試験を施行し7METSの運動耐容能が確認された。11/11、重症跛行は改善し職場復帰した。また入院前後で比較した健康関連QOLであるSF36は、国民標準値を下回る項目が多く認められたが、退院後では歩行距離の延長に伴い改善を認めた。
【考察】ICの重症度は側副血行路の発達の程度、すなわち歩行時の血液供給予備能力に決定される。本症例はバイパス術により血行再建され、有酸素レベルの監視型運動療法により、ABPIおよび歩行負荷TCPO2は改善し、安静時値への回復時間の短縮を認めた。これにより運動時筋組織酸素代謝の改善をもたらしICは消失したと推察する。加えて短期間に社会復帰可能となりQOLの向上をもたらしたものと考察する。