抄録
【はじめに】
近年,高齢化に伴い転倒予防を目的とした介護予防事業が多くの市町村で取り組まれるようになってきた.我々も,平成15年4月より北海道富良野市における転倒骨折予防事業に参加する機会を得て,3ヶ月毎に身体機能,心理面の評価及び運動プログラムの作成を実施している.今回は,事業開始より3ヶ月が経過した時点で,事業開始前と比較し早期効果について検討し若干の知見を得たので報告する.
【対象と方法】
対象は,富良野市在住で歩行機能低下等の転倒危険要因のある65歳以上の高齢者20名(平均年齢71.8±6.9歳)であり,介入方法は3ヶ月ごとの身体機能・心理面検査と週1回の保健センターでの運動及び個別プログラムにもとづいた自宅での運動とし,期間は平成15年4月より1年間を予定している.介入スタッフは,富良野市保健センター担当保健師2名,富良野市内機関病院理学療法士1名と当学院理学療法士1名にて実施している.評価内容は,握力,下肢筋力,柔軟性,Functional Reach Test(FRT),重心動揺,開・閉眼片足立ち保持時間,Timed Up And Go Test(TUG),10m歩行(普通,最大),痛みの状態,心理面(転倒恐怖感等)とし,筋力測定にはハンドヘルドダイナモメーターを使用した.運動プログラムは主にストレッチング,筋力トレーニング,バランストレーニングとした.効果の検討には,対応のあるt-検定を用い,有意水準は5%以下とした.
【結果と考察】
3ヶ月間という短期間で有意な変化がみられた項目は,大腿四頭筋筋力の増加,開眼での片脚立ち保持時間,心理面での恐怖心の低下であった.10m歩行,TUG,FRT,重心動揺についても,改善傾向はみられたものの統計学的な有意差は認めなかった.
以上の結果から,従来からの報告と同様に下肢筋力の増加は転倒に対する恐怖心を軽減し,引きこもりなどの防止に影響を与えるものと考える.また,開眼時に対して閉眼時の片脚立ち保持時間についてはほとんど変化がみられなかったことから,視覚遮断時での運動効果についての検討も必要と考える.今後は,参加者の身体的特性と短期的な効果を示す要素との関連性について検討するとともに,実際の日常活動量なども調査しながら,更なる検討を重ねていきたい.