抄録
【目的】
多発性筋炎は筋力低下を主症状とする骨格筋の炎症疾患であり、その重度例は、筋痛のため通常の筋力トレーニングすら行えず、運動機能障害はさらに深刻となる。一方、従来から筋力増強や筋萎縮の予防を目的に電気刺激療法が広く行われている。随意的な筋収縮を要さず筋線維肥大効果が得られることに着目すると、電気刺激は多発性筋炎患者の筋力トレーニング法として利用できるとも思える。しかし、これまで炎症を伴う骨格筋に対する電気刺激の影響については知見が少なく、電気刺激が筋病態を悪化させることも懸念される。そこで今回我々は、筋炎モデルラットの骨格筋に対する電気刺激の影響を組織病理学的に検討した。
【方法】
8週齢のLewis系雌ラット10匹を5匹ずつ筋炎群、対照群に振り分けた。筋炎群に対しては、起炎剤としてラミニン・フロイント完全アジュバント(CFA)混合液を隔週3回皮内注射し、筋炎を惹起させた。対照群にはCFAのみを同様に皮内注射した。そして、3回目の起炎剤注射の翌日から2週間、各群の右側下腿前面に対して経皮的に電気刺激(4mA、10Hz)を毎日20分間行った(刺激側)。また、各群の左側下腿は電気刺激を行わず、各群の比較対照に用いた(非刺激側)。実験期間終了後は、1%エバンスブルー溶液を尾静脈から注入し、24時間後に両側の前脛骨筋、長趾伸筋を摘出した。そして、連続凍結横断切片を作成し、HE染色、ATPase染色を行い、壊死線維と再生線維の出現頻度ならびに筋線維直径について検討した。なお、今回の壊死線維は細胞浸潤の有無にかかわらず、蛍光顕微鏡下でエバンスブルーによって標識された筋線維とした。
【結果】
対照群の前脛骨筋、長趾伸筋では、刺激側、非刺激側とも壊死線維はほとんど認められず、非刺激側に比べ刺激側の各筋線維タイプの平均筋線維直径は有意に高値を示した。一方、筋炎群の前脛骨筋、長趾伸筋では、細胞浸潤を伴う壊死線維、再生線維など筋炎所見が認められ、加えて、刺激側では細胞浸潤を認めないものの、エバンスブルーで標識される筋線維が出現していた。また、筋炎群の刺激側と非刺激側で壊死線維と再生線維の出現頻度を比較すると、両筋とも刺激側が有意に高値を示し、両筋の各筋線維タイプの平均筋線維直径は、非刺激側と刺激側の間に有意差は認められなかった。
【考察】
今回の結果によると、対照群の刺激側では筋線維損傷はなく、筋線維肥大効果が認められた。一方、筋炎群の刺激側では細胞浸潤を伴わなくてもエバンスブルーで標識される筋線維が出現し、この所見は筋線維壊死の初期段階であると推察される。そして、筋炎群の刺激側では壊死線維、再生線維が増加し、筋線維肥大効果も認められなかった。したがって、筋炎モデルラットの骨格筋に対する今回の電気刺激の条件では、筋線維肥大効果は得られず、逆に筋病態を悪化させる可能性があることが示唆された。