抄録
【目的】高齢者の日常生活に障害をきたす原因として転倒があげられる。転倒要因の一つに末梢からの感覚入力の低下があげられ、それによるバランス能力の低下が転倒を誘発することがいわれている。バランス能力の評価には様々な方法があるが、今回膝関節損傷者に対するバランス能力の評価に使用されているStar-Excursion Test(Kinzeyら、1998、以下SET)を修正して使用し、これに末梢からの感覚入力を評価する膝固有受容感覚測定の結果を加味し、バランス能力と固有受容感覚の関連性を明らかにすることを目的とした。仮説として健常者において固有受容感覚がよければバランス能力が高いと推測した。
【方法】対象は下肢に疾患のない健常者20名(男性15名、女性5名)とした。平均年齢(±SD)は63.3±6.0歳、身長は160.7±8.2cm、体重は58.2±11.6kgであった。固有受容感覚の測定は、Lephartら(1992)の方法を参考に独自に製作したコンピュータ制御装置(固有運動覚・固有位置覚測定装置、センサー応用社.日本)を用いた。膝位置覚は、端座位にて膝屈曲90°を開始角度とし、設定角度は膝屈曲20°、40°の2種類とした。10°/secで他動的に下腿を伸展させ設定角度を記憶した後、同速度にて他動的に同側下腿で角度を再現してもらった。この時の角度を再現角度とし、設定角度からの誤差角度を記録した。膝運動覚は、端座位にて膝関節屈曲15°と45°を開始角度とし、屈曲、伸展方向に0.5°/secで他動的に下腿を動かした。下腿が動いたと感じた時点でスイッチを押してもらい、開始角度からスイッチを押すまでに動いた角度を誤差角度として記録した。SET変法の測定は自作した装置の中点に軸足をおき、8方向へバランスを崩さず戻ることができる最大リーチ距離を測定し、身長で除して補正した。統計学的分析にはStatView5.0(SAS Institule Inc.)を用い、8方向のSET変法のリーチと位置覚、運動覚についてピアソンの相関係数を求め検定を行った。
【結果】SET変法と位置覚の間では有意な相関が認められなかった(r=-0.43~0.46)。SET変法と運動覚の間でも有意な相関が認められなかった(r=-0.31~0.43)。
【考察】SET変法と位置覚や運動覚と相関がなかったことから健常者においてバランス能力と固有受容感覚に関連性がないことがわかり仮説とは異なる結果となった。健常者におけるバランス能力は固有受容感覚以外の要因が大きく関与していると考えられた。今後は高齢者や片麻痺者など運動障害や歩行障害を伴っている者を対象として、SET変法と固有受容感覚の関係を明らかにし運動療法に役立てていきたい。