抄録
【目的】高齢者の体力維持・健康増進は重要で、特に体幹の愁訴は全身の機能低下をきたす深刻な問題となる。我々は体幹筋力の維持・強化が、高齢者の健康増進につながると考えている。しかし、体幹屈曲筋力を鍛えるエクササイズはセラピストが対象の上肢を介助した上体起こし動作が主で、客観的な筋力の評価が行い難く、高齢者がひとりで練習することが困難なことが多い。そこで、青木ら(2001)の考案したTilt Table上で傾斜をつけて行う上体起こし動作(Tilt Sit Up)を用い、独力で起き上がり可能な最低角度(Tilt角度)を測定し、評価やエクササイズに使用してきた。本研究では、上体起こし動作に要した介助量とTilt角度との関連について検討した。
【方法】対象は、本院に外来通院している患者で、本研究の趣旨に同意を得られた65歳以上の高齢者である。重度な高次脳機能障害、体幹疾患の急性期、測定を遂行する際に急性増悪の可能性のある者を除く20名(男性6名、女性14名)で測定を行った。平均年齢(±SD)は77.7±7.1歳(65から92歳)、体重は51.3±12.4kg(33から76kg)であり、主な疾患は変形性膝関節症(7名)、変形脊椎症(5名)、肩関節周囲炎(4名)などであった。対象をTilt角度と上体起こし動作に要する上肢介助の負荷量を体重で徐したもの(単位:N/kg、以下上肢介助量)の両者について比較した。上肢介助量は両端に一本の紐をつけた30cmのバーを把持させ、平らなベッド上での背臥位からの上体起こし動作に必要になった力を徒手筋力検査装置(J TECH MEDICAL社製 Power Track 2)にて測定した。
【結果】上肢介助量の平均値(±SD)は1.4±0.5N/kg、Tilt角度は14.6±6.2°となった。上肢介助量とTilt角度の間にr=0.84の有意な正の相関がみられた。また疾患ごとにおいても有意な相関がみられた。
【考察】Tilt Sit Upでは、Tilt Tableの傾斜角度により上半身に加わる重力を減少させることができ、水平面では何らかの介助が必要な高齢者でも独力で上体起こし動作が可能になる。今回の研究では、上肢介助量とTilt 角度の間に有意な正の相関が認められ、上体起こし動作の能力をTilt角度から推測できるという可能性を再確認できた。これまで上体起こし動作の能力は評価方法やエクササイズの効果に対して、十分吟味されておらず、臨床現場においても曖昧であった。Tilt Tableを用いるエクササイズでは、1°単位での傾斜角度の設定が可能であり、効果判定や本人へのフィードバックが容易で、モチベーションの向上にもつながる。Tilt Tableを用いた上体起こし動作は、高齢者の体幹に対する運動療法における一手段、一評価法として臨床現場では容易で有意な手段として施行できると考える。