抄録
【目的】これまでに我々は、高齢者の転倒要因を検討する上で歩行時の外乱刺激に対する姿勢制御反応の重要性に着目し、加齢が姿勢制御反応に及ぼす影響について研究を行ってきた。そして、高齢者と若年者の筋反応パターンの差異を明らかにした。これは、若年者、高齢者それぞれが、有する身体機能に合った反応を示すために生じる差異とも考えられ、高齢者の反応を若年者に近づけることが必ずしも適しているとはいいきれない。高齢者が、適した姿勢制御反応を得るためには、繰り返しの練習による運動学習によって模索し獲得していくことが有効と考えられる。本研究の目的は、両側分離型トレッドミルを用い、歩行中に繰り返しの外乱刺激を与えることで、歩行時の外乱刺激に対する姿勢制御反応の運動学習過程を明らかにすることとした。
【方法】地域在住高齢者10名(男性5名、女性5名、平均年齢69.3±2.3歳)を対象とした。表面電極を、右側の体幹、大腿、下腿の前面・後面筋、計6筋に設置し、筋活動を測定した。また、仙骨部には加速度計を取り付け、前後方向の加速度を測定した。被験者は両側分離型トレッドミル上(PW21:日立製作所)を2km/hにて5分間歩行した。5分間歩行時に右側の歩行ベルトを500msecの間急激に1km/hまで減速し身体が後方へ動揺する外乱刺激をランダムに20回与え、この時の姿勢制御反応を調べた。骨盤加速度データは前後方向最大振幅値、筋電データは筋潜時と振幅について解析した。初めの5回分のデータを運動学習前、後の5回分のデータを運動学習後、中の10回分のデータを運動学習期とし、運動学習前・後の比較を行った。統計は、二元配置の分散分析を用い、危険率は5%とした。
【結果】運動学習前に、4名には、身体前面筋が遠位から近位に向かって反応する足関節戦略がみられ、運動学習後も筋反応パターンに変化はみられなかった。残り6名には、身体前面筋と身体後面筋が反応する戦略がみられたが、その内4名は運動学習後に、身体後面筋反応が減弱し前面筋の反応が主になる筋反応パターンへと変化を示し、2名は、運動学習後も変化はみられなかった。骨盤加速度の前後方向最大振幅値は、運動学習前と比べ、運動学習後の方が小さくなる傾向がみられた。身体後面筋潜時は、運動学習後の潜時が、運動学習前と比較して有意に長かった(p<0.05)。
【考察】運動学習後は、身体前面筋反応のみで外乱刺激に適応できる個人が運動学習前と比較して増えた。また、筋潜時では、運動学習後の方が身体後面筋潜時が有意に長かった。これまでの我々の研究で、身体が後方へ動揺する外乱刺激を与えた場合、身体前面筋のみで外乱刺激に適応できない場合は前面筋のみではなく後面筋反応がみられることが明らかになっている。以上のことから、繰り返しの歩行時外乱刺激によって、姿勢制御反応戦略を変化させ、適した姿勢制御を行うような運動学習過程がみられたと考えられる。