抄録
【はじめに】脳血管障害片麻痺患者の歩行動作は、腰方形筋を含む腰背筋の筋緊張亢進により麻痺側骨盤を引き上げ麻痺側下肢を振り出すことが多い。今回、臨床場面において麻痺側下肢の振り出し時に麻痺側上肢の連合反応が誘発されていると考えられた症例を経験した。この現象の要因として、腰方形筋を含む腰背筋の筋緊張亢進にともなう中枢神経機能の興奮性増加が麻痺側上肢に対応する中枢神経機能の興奮性を増加させていると考えた。そこで、本研究では連合反応の神経学的機序を解明し理学療法に応用する前段階として、健常者の腰方形筋の筋収縮が上肢の中枢神経機能の興奮性に与える影響を脊髄神経機能の興奮性の指標であるF波を用いて検討したので報告する。
【対象と方法】対象は健常者15名、平均年齢32歳、身長165.2cmとした。まず、被検者をベッドに安静臥床させ、右側短母指外転筋からF波を記録した。次にF波記録側と同側もしくは対側の足関節部に張力センサー(共和電業社製)を装着し、装着側腰方形筋の最大持続収縮の25、50、75、100%の筋収縮を各30秒間行わせF波を記録した。腰方形筋の筋収縮は徒手筋力検査に準じ骨盤の前傾・挙上を意識させ行わせた。筋出力は計装用コンディショナ(共和電業社製)によりデジタル表示から視覚的フィードバックにより調節させた。筋電計はバイキング(ニコレー社製)を用い、F波記録は表面電極で関電極を短母指外転筋筋腹上に不関電極を第一指基節骨上に貼付し周波数帯域は5Hz~2kHzとした。F波刺激条件はM波が最大となる刺激強度の120%、持続時間0.2msの定電流矩形波で手関節部正中神経を1.0Hzの刺激頻度で連続30回刺激した。各試行はランダムに行い、試行間の休憩は脊髄前角細胞の興奮性が定常状態となる3分間とした。F波波形分析は、脊髄前角細胞数に影響するF波出現頻度と脊髄前角細胞の興奮状態を反映する振幅F/M比とし、腰方形筋の収縮度の変化にともなう上肢F波の特徴を検討した。被検者には事前に本研究に同意を得て行った。
【結果と考察】F波出現頻度は、各個人差はみられるものの全体的な傾向として両側共に腰方形筋の収縮時は安静時と比較して増加する傾向がみられた。振幅F/M比は収縮時に安静時と比較して増大する群(10名)と変化の認められない群(5名)と大きく2群に分けられた。この結果から、健常者においては腰方形筋の筋収縮による上肢中枢神経機能における興奮性の程度には個人差があるものの、出現頻度の結果から考えると腰方形筋の筋収縮により上肢脊髄神経機能の興奮性は増加することが推測された。この神経学的機序としては、健常者において腰方形筋の筋収縮にともなう中枢神経系での興奮性の波及現象が生じることで、上肢に対応する中枢神経系の興奮性を増加させたのではないかと考えられた。