抄録
【目的】
エルゴメーター運動は,運動負荷試験やフィットネス改善目的だけではなく,脳卒中患者に対する痙縮軽減や機能改善の運動療法にも応用されており,歩行訓練・治療への有効な手段となる可能性がある.われわれは過去の関連学会にて,健常者の正回転におけるエルゴメーター運動時の筋活動を検討したが,逆回転におけるエルゴメーター運動時の筋活動に関する検討は行っていない.そこで今回,座位での駆動が可能な多機能エルゴメーター(ストレングスエルゴ,三菱電機エンジニアリング社製)を用いて検討したので報告する.
【対象】
インフォームドコンセントが得られ,エルゴメーター運動の支障となるような内科疾患,骨関節疾患等のない健常成人(男性5名)と脳卒中片麻痺患者(男性3名,女性2名)で,ブルンストロームステージは4から5レベルで,全例ともに歩行可能であった.
【方法】
両側の前脛骨筋(TA),ヒラメ筋(Sol),腓腹筋内側頭(MG),大腿直筋(RF),内側広筋(VM),内側ハムストリングス(MH)を被検筋とした.筋電計はNeuropackMEB2200(日本光電社製)を用い、実験肢位は座位で,最大膝伸展角度を30度,駆動速度は30rpmとした.駆動速度に合わせたピッチ音で駆動のタイミングを制御した.運動負荷はアイソトニックモードで3Nm(15W)とした.解析は50回転分の施行を整流,加算平均し,膝関節が屈曲する時期を屈曲相,伸展する時期を伸展相として,実験1.「健常者における正回転と逆回転との筋活動変化」,実験2.「逆回転における健常者と脳卒中片麻痺患者の筋活動変化」を検討した.
【結果】
実験1.において,正回転のRFは屈曲相後期から伸展相初期に活動した.MHは伸展相後期から屈曲相初期に活動した.一方,逆回転のRFは伸展相全般に活動した.MHは屈曲相中心に活動した.筋活動量に関して,逆回転では,TA,MH,MGの筋活動量は低下し,逆にVMの活動量が著明に増加した.実験2.において健常者のTAやMHは弱い活動であったのに対して,非麻痺側のTAやMHは屈曲相において著明な活動を認めた.麻痺側の筋活動は全体的に乏しく,屈曲相や伸展相を通して常に活動する筋を認めた.
【考察】
結果より,逆回転は正回転に比べ特にVMの筋活動量が増加することから,VMのトレーニングに効果的であると思われた.エルゴメーター運動は伸展筋群優位の運動であり,両側の伸展相においてトルクを発揮できれば,屈曲相はほとんど惰性で駆動できる.片麻痺患者は伸展相において,十分な駆動力を発揮できないために,非麻痺側のTAやMHを用いて麻痺側駆動力を代償していると考えられた.麻痺側においては同時収縮を起こしており,正しいタイミングで駆動できないことが,非麻痺側の代償をさらに高めていると考えられた.