抄録
【目的】我々は、高齢者に対して、効果的な治療を提供するために、体幹伸展能力に応じた体幹伸展エクササイズの方法を確立する必要があると考えている。本研究は5種類のエクササイズを設定し、各脊柱レベルにおける表面筋電図(EMG)を測定し、体幹伸展能力に応じた体幹伸展エクササイズの方法を探り、段階的なプログラムを作成することである。
【対象】対象は、当院に外来通院している65歳以上の高齢者29名(男性13名、女性16名)とした。平均年齢、身長、体重はそれぞれ74.7±7.5歳、155.3±10.9cm、60.2±13.4kgであった。そのうち、腹臥位がとれなかった高齢者は6名であった。研究の趣旨を説明し、同意を得た。なお中枢性疾患を有するものは対象から除外した。
【方法】測定は脊椎棘突起の3cm外側におけるTH6の僧帽筋とTH9、TH12、L3での脊柱起立筋の4ヶ所の高さでEMG(バイオモニターME6000、NIHON MEDIX社)を記録した。エクササイズの方法は、1.腹臥位にて上肢を体側に沿わせた上体反らし運動、2.腹臥位にて厚さ5cmの枕を胸部(TH5レベル)に挿入した上体反らし運動、3.背臥位にてSLR30°で踵部を検査者が支えた膝関節伸展位でのブリッジ運動、4.端座位にて手を頭の後ろで組んだ状態での体幹前後屈運動、5.股関節屈曲90°の座位における等尺性体幹伸展運動(GT-350、OG技研社)である。腹臥位がとれない高齢者には3.~5.のエクササイズのみを行った。5.のエクササイズの運動時2秒間のEMG積分値を基準として、他のエクササイズと比較した。さらに腹臥位での上体反らし運動における下顎挙上高を体幹伸展能力の指標とし、下顎挙上高と1.および2.のEMGの比較も行った。
【結果】5.のEMGを基準とし、腹臥位がとれる高齢者の各エクササイズのEMG積分値の平均についてはそれぞれ1.は191.5±26.4%、2.は185.5±26.0%、3.は123.8±23.1%、4.は64.5±8.6%だった。平均下顎挙上高は9.2±6.8cmであり、下顎挙上高と1.および2.の比較は、下顎挙上高が6.0cm以下は1.より2.が有意に筋活動は高まり、6.0cm以上では1.が高い筋活動を生じさせた(6.0cm以下、1.平均184.2%、2.平均195.7%、p<0.05)。腹臥位がとれない高齢者におけるEMG積分値の平均については、3.は148±24.7%、4.は83.7±10.8%であった。
【考察】5つのエクササイズの中で1.が最も高い筋活動を生じさせるエクササイズであった。しかし2.は下顎挙上高が6.0cm以下の高齢者に対しては1.より高い筋活動を生じさせ、体幹伸展の可動域や筋力低下により体幹伸展能力が低下している高齢者に対して有効なエクササイズであると考えられる。3.および4.は腹臥位をとれない高齢者において腹臥位をとれる高齢者と比べ、より高い筋活動を生じさせる可能性があり、腹臥位をとれない高齢者に対しても簡便に行える有効なエクササイズの1つと結論づけた。体幹伸展能力に応じたエクササイズを適応することで、より効果が得られると考える。