抄録
【目的】ハムストリングスの制約作用により、股・膝関節運動は規定される。我々は、ハムストリングスの柔軟性の程度が遊脚相における下肢の振り出しの大きさと関連すると仮説を立てたが、柔軟性と歩幅および股・膝関節運動の総和としての下肢の振り出し角度には関連を認めなかった(第39回日本理学療法学術大会)。本研究では、ハムストリングスの柔軟性と遊脚相における下肢の振り出しの大きさ、股・膝関節運動との関係について分析した。
【方法】本研究は、本学研究倫理審査委員会の承認を受け実施した。対象は、本研究に対して同意を得た健常男性16名(平均年齢21.1歳)であった。背臥位膝関節伸展位での他動的股関節屈曲角度(SLR角)を測定し、SLR角の平均値を基準にハムストリングスの柔軟性が相対的に低い群(A群:8名)と高い群(B群:8名)に分類した。被験者に1)80 m/分、2)100 m/分、3)120 m/分の3種類の速度にてトレッドミル歩行を2分間実施させ、歩行状態を三次元動作解析装置にて30秒間計測した。5歩行周期分の計測データから、下肢振り出し距離(下肢長により正規化した大転子と外果間距離の矢状面への投影最大距離)、下肢振り出し距離の算出時点における股関節屈曲角と膝関節屈曲角を算出した。分析には右下肢の算出データを使用し、柔軟性と歩行速度を要因とした二元配置分散分析と多重比較を行った。
【結果】SLR角の平均値は、全体:68.0°、A群: 60.9°、B群: 75.0°であった。分散分析の結果、各分析項目には二要因の交互作用は認めなかった。下肢振り出し距離は、歩行速度に主効果を認め(F=3.29,p<0.05)、その平均値は1)32.5%、 2)35.1%、3)34.1%であった。股関節屈曲角は、歩行速度に主効果を認め(F=7.04,p<0.01)、その平均値は、1)25.4°、2)28.0°、3)29.9°で、多重比較の結果1)と3)間に有意差を認めた(p<0.01)。膝関節屈曲角は、柔軟性に主効果を認め、その平均値はA群:7.2°、B群:4.1°であった(F=4.25,p<0.05)。
【考察】柔軟性は膝関節屈曲角と関連し、柔軟性が低下している群では膝関節屈曲角が大きいことが明らかになった。遊脚相における膝関節運動の特徴として、股関節最大屈曲位の時点では軽度屈曲位にあるが、その後股関節がほぼ同一角度の状態で伸展運動を生じる。股関節がほぼ一定位で保持された状態にて膝関節の伸展運動が生じることから、柔軟性の程度が膝関節運動に反映し、伸展運動の減少が生じたと考える。
【まとめ】ハムストリングスの柔軟性が低下している場合には、遊脚相における膝関節伸展運動が減少するが、股関節屈曲角度、下肢の振り出しの大きさには関連しない。