抄録
【はじめに】関節軟骨の自己治癒能力は非常に乏しいため,組織移植のような特別の処置をしない限り自然治癒は困難であるとされている。脇谷らは、動物実験で関節軟骨欠損部にES細胞を移植し、硝子軟骨が再生することを報告している。一方,関節を不動の状態で放置すると,関節軟骨は変形性関節症様の変性を起こすことが知られている。Salterらは家兎の膝関節に軟骨欠損を作成し,CPM(Continuous Passive Movement;持続的他動運動)装置を用いた関節運動負荷により、損傷部関節軟骨の治癒が促進されることを報告している。
【目的】ラットを用い,軟骨欠損部の胚性幹細胞(ES細胞)を用いた治療において,関節運動負荷が欠損部組織再生に与える影響について検討することを目的とした。
【方法】実験動物として12週齢のSDラット(雄)10匹を用いた。両膝関節のpatella grooveに直径2mm深さ2mmの骨軟骨欠損を作成し,左膝にはES細胞(green ES-cell FM260)をコラーゲン・ゲル(type-I)に包埋して移植した(1.5×105個/15μl)(ES side)。右膝にはES細胞の移植は行わなかった(Control side)。手術後のラットは懸垂群(n = 5),関節固定群(n = 5)に分けられた。懸垂群のラットは,尾部懸垂により後肢を免荷し,膝関節の自由な運動は拘束しない。また,関節固定群は尾部懸垂による後肢免荷に加え,膝関節の運動をpinningにより拘束した。両群とも手術後1週間は自由飼育とし1週間後に懸垂および関節固定の負荷を行った。実験動物はクリーンラック内(クリーン度クラス100)で飼育され,免疫抑制剤 cyclosporinを毎日14 mg/kg注射した。実験動物は,負荷開始から3週間後に安楽死させ,組織学的評価を行った。
【結果】懸垂群Control sideの再生組織は,表面にトルイジンブルーに異染性を示す硝子軟骨様組織が認められた。懸垂群ES sideの再生組織では,表層に硝子軟骨様組織の形成が観察された。関節固定群Control sideでは,硝子軟骨様組織形成は認められず再生部を含む関節表面に変形性関節症様の細胞増殖が認められた。関節固定群ES sideでは,ES細胞移植部に巨大な奇形腫が形成された。
【考察】今回の結果より,軟骨欠損部の修復において関節運動負荷が幹細胞の異常な増殖を抑制し,硝子軟骨への分化を促すこと,また, ES細胞による関節軟骨再生治療において,関節の不動化は奇形種形成の危険性をより高めることが示唆された。