抄録
【目的】妊娠時の腰痛は,症状が比較的軽く,治療を受けるまでに至らないが,マイナートラブルとして問題視されている.その原因は,妊娠に伴う体重増加や体型変化により,腰背筋の緊張や腰椎へのメカニカルストレスが増加することによる.また,リラキシンなどのホルモン作用により,妊娠早期から腰椎や骨盤輪の靭帯が弛緩し,同部位への負荷が増強するためであると考えられている.そのような腰痛の診断方法は,妊娠中でありX線検査などの画像診断は難しいため,安全で簡単に行える徒手検査が行われているが,確実なものはなく,複数の検査法が提示されている.そこで本研究では,アンケート調査と同時に,腰痛症状を評価するため二種類の徒手検査を実施し,自覚的な腰痛と徒手検査との関連性を明らかにすることを目的とした.
【対象と方法】総合病院の産科に通院する妊婦,52名を対象とした.対象者のうち,今回妊娠してから自覚的な腰痛を経験している者29名(以下腰痛群)と,腰痛を経験していない者23名(以下腰痛なし群)とに群分けした.年齢,妊娠週数など全ての項目において,両群間に有意差は認められなかった.独自に作成した質問紙を用いて,対象者の属性,自覚的な腰痛について調査した.また徒手検査として下肢伸展挙上テスト(straight leg raise test;以下SLRT)を実施すると同時に,ハムストリングスの柔軟性をみるため,tight hamstringも評価した.徒手的な骨盤輪負荷テストの一つであるposterior pelvic pain provocation test(以下PPPP-T)を実施した.
【結果】SLRTが陽性である者は,腰痛群,腰痛なし群ともにいなかった.tight hamstringが陽性である人数は,腰痛群で両側とも8名,腰痛なし群は右側5名,左側6名であった.tight hamstringの陽性と陰性の人数の割合は,両群間で,左右側とも有意差は認められなかった.PPPP-Tの陽性の人数は,腰痛群で両側とも5名,腰痛なし群は右側1名,左側0名で,腰痛群の方が多かった.しかしPPPP-Tの陽性と陰性の人数の割合は,両群で有意差は認められなかった.
【考察】半数以上の妊婦が,妊娠後に腰痛を経験していたが,SLRT ,tight hamstringの人数ともに,自覚的な腰痛の有無と関連がみられなかったことから,妊娠時の腰痛は,一般的な腰痛の指標に反映されないと考えられる.一方PPPP-Tは,陽性と陰性の人数の割合が両群で有意差が認められなかったものの,PPPP-Tが陽性である人数は,腰痛群の方が腰痛なし群に比べて多い傾向にあり,PPPP-Tと妊娠時特有の腰痛は何らかの関連があると推察される.今後は対象者数を増やし,他の検査法を複数組み合わせて,より確実に腰痛を評価する方法を検討していきたい.