抄録
【はじめに、目的】非接触型膝前十字靭帯(ACL)損傷は,主に着地動作やカッティング動作に好発し,動作時の膝外転角度および膝外転モーメントの増加はACL損傷リスクと成ることが示唆されている.台上から落下着地後,直ちに最大垂直跳びを行うDrop Vertical Jump(DVJ)では,着地時の膝外転角度および膝外転モーメントの増加がACL損傷を予測することが報告されており,広くACL損傷のスクリーニングテストとして用いられている.実際のスポーツ場面では側方への運動が頻繁に行われており,側方への運動は膝関節への外転負荷を高め,ACL損傷とより関連が深いかもしれない.しかし,課題間での膝外転角度および膝外転モーメントの関連に関する研究は限られており,DVJにおける膝関節運動と,ACL損傷との関連が深いと考えられる側方への運動での膝関節運動との関連についてはわかっていない.よって本研究の目的は,DVJと側方ホップという異なる課題間における,着地時膝外転角度および膝外転モーメントの関連について検討することとした.【方法】健常成人20名を対象とした(男性9名,女性11名,年齢21.2±1.1歳,身長167.4±7.6cm,体重57.8±8.6kg).除外基準は膝ACL損傷の既往を有する者,過去6か月間に下肢・体幹の整形外科的な既往を有する者とした.着地動作の計測には赤外線カメラ6台(Motion Analysis社製)と三次元動作解析装置EvaRT4.3.57(Motion Analysis社製,200Hz),床反力計2枚(Kistler社製,1000Hz)を用い,反射マーカーは被験者右下肢の大腿,下腿などに合計 39 個貼付した.動作課題は,30cm台から降り,着地後直ちに最大垂直跳びを行うDVJ課題と,側方へ約40cm両脚でホップし,両脚で着地を行う単純な側方ホップ課題(LHOP),さらに側方ホップ着地後直ちに最大垂直跳びを行う側方ホップ後最大垂直跳び課題(LHVJ)の3課題を用いた.各課題での最初の着地における,初期接地から膝最大屈曲までを解析相とし,SIMM6.02(MusculoGraphics社製)を用いて各施行の膝外転角度および膝外転モーメントの最大値を算出した.膝外転角度は各被験者の静的立位時を0°とし,膝外転モーメントは各被験者の体重および身長で除し,標準化した.成功3施行の平均値を代表値として解析に用いた.統計学的解析はPearsonの相関係数を用い,課題間での膝外転角度および膝外転モーメントの関係性を検討した,有意水準はP<0.05とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当大学院倫理委員会の承認を得て行った,対象には事前に口頭と書面で本研究の目的,実験手順,考えられる危険性などを十分に説明し,その内容について十分に理解を得て,参加に同意した者は同意書に署名し,研究に参加した.【結果】膝外転角度に関して,DVJとLHVJ(R=0.94,P<0.001),DVJとLHOP(R=0.62,P<0.001),LHVJとLHOP(R=0.73,P<0.01)それぞれの間に,有意な正の相関を認めた.つまりDVJで膝外転角度が大きい者ほどLHVJおよびLHOPでも大きく,またLHVJで膝外転角度が大きい者ほどLHOPにおいても大きい結果であった.さらに膝外転モーメントに関して,DVJとLHVJの間に有意な正の相関を認めた(R=0.66,P<0.01).つまりDVJで膝外転モーメントが大きい者は,LHVJにおいても大きい結果であった.その他に有意な相関は認めなかった.【考察】膝外転角度は全ての課題の間で有意な正の相関が認められ,課題に関わらず同様の傾向を示す事が示唆された.DVJはACL損傷スクリーニングテストとして広く用いられており,着地時の大きな膝外転角度はACL損傷を予測することが報告されている.DVJにおいて大きな膝外転角度を示す者は,スポーツ場面で多く行われる側方運動時においても同様の傾向を示し,ACL損傷リスクと成り得ることが示唆された.膝外転モーメントに関してはDVJとLHVJの間でのみ有意な正の相関が示された.さらに,膝外転角度に関する相関係数はDVJとLHVJの間で最も高かった.この結果は2つの課題に共通する着地から垂直跳びへの運動の切り返しが,どちらの課題においても膝外転角度および膝外転モーメントに影響を与えた可能性を示唆する結果である.【理学療法学研究としての意義】本研究結果より,それぞれ被験者における異なる課題間での膝外転角度および膝外転モーメントに関連が示された.これはACL損傷リスクのある者は,課題に関わらず大きな膝外転角度および膝外転モーメントを示す可能性を示唆するものであり,ACL損傷予防において修正し得る運動特性であると考えられる.