抄録
【目的】片麻痺患者の機能評価法にBRSやSIAS等が用いられるが,下肢ステージ3など同一運動機能レベルでも歩行速度に大きな差の生じるケースが少なくない。今回自転車エルゴメータやSIASの評価によって多変量解析を行ったところ興味ある知見を得たのでここに報告する。
【対象】脳血管障害発症後2週間以上経過し(中央値4.6年),屋内平地歩行及び自転車エルゴメータ駆動が可能な片麻痺患者54名(66.0±6.2歳)を本人同意の上対象とした。
【方法】評価項目に,自転車エルゴメータにより10watts/分のランプ負荷で40rpmを維持できた最大watts(All-out値(以下,AO))と,直後の10m最大歩行速度,そして運動機能の評価項目として下肢BRS及びSIASの麻痺側運動機能(上下肢)・筋緊張・感覚機能・下肢ROM・腹筋力を用いた。
【分析】統計ソフトにJMPを用いて,歩行速度を目的変数に定め,1.上記項目を説明変数に回帰分析やKruskal-Wallis検定を行った。2.そして1.で歩行速度と関連ありと認めた項目を説明変数に投入したCART(回帰木分析)を行なった。得られたルールに従って歩行速度(m/分)を30未満,30以上40未満,40以上80未満,80以上に4区分した内部標本検証により,正答率の高い組み合わせを抽出した。
【結果】1.ではAOで相関係数r=0.71,p=0.00,決定係数R2乗=0.51の高い相関が得られた。また股関節屈曲テスト・膝伸展テスト・腹筋力の3項目にp<0.05の有意差を認め,歩行速度との関連を得た。2.では第1及び2分岐にAOの70,160wattsが,第3分岐にAOの70watts未満で膝伸展テスト4が,そして第4分岐にAOの70watts以上で腹筋力1がそれぞれ説明変数の基準として選択され,その正答率は61%となった。
【考察】AOは歩行速度との関連性が高く,CARTでも大きく影響することが分かった。AOの運動様式はCybexに代表される等速性運動とも考えられ,膝伸展力(トルク値)と歩行速度との関連性は既に検証されている。そして下肢BRSよりもやはりSIASに機能分析力を有し,膝伸展テストだけでなく腹筋力も選択されたことは興味深い。但し61%と低い正答率であったことを受け,今後更に関連事象の探求,並びに得られた回帰木ルールを外部標本で再評価することが課題となった。最後にエルゴメータのAOによって,手軽に片麻痺患者の歩行速度が評価でき,AOの向上が歩行速度の改善に繋がるものと推測された。