抄録
【目的】
パーキンソン病(PD)ではリズム形成障害が認められ,音刺激を利用した歩行訓練などが行われている.Lowenthalらは,H&Y stage 3では音刺激による歩行リズムの改善はなく,疾患重症度やバランス障害との関連を検討する必要性を指摘している.
リズム形成能力が正常に働くには,同期性SE(音刺激と反応のずれ),正確さCV(clock variance:反応間隔の平均のSD)などの要素が必要となる.この研究では,これらの要素からPDの歩行におけるリズム形成能力を検討することを目的とした.
【対象】
PD患者9名(PD群;平均年齢65.2±7.7歳,罹患期間15.5±7.8年,H&Y stage 2-1名,2.5-1名,3-4名,4-2名),健常高齢者10名(健常群;平均年齢69.3±2.3歳).
【方法】
1.歩行:1軸加速度計を被験者の左足首に装着し,a) 快適歩行A,b) 快適歩行B,c) 快適歩行+20%,d) 快適歩行-20%の4つを評価した.b)~d)はメトロノームの音刺激に合わせて歩くよう指示した.2分間(又は100歩行周期)の測定を各1回ずつ行い,SE(音刺激と踵接地のずれ)とCV(踵接地間隔の平均値のSD)を求めた.
2.重心移動距離:重心位置測定装置(ECG-1010D,共和電業社)で,随意的な重心の最大移動距離を計測した.
3.疾患重症度:UPDRSを評価した.
4.統計解析:PD群と健常群の比較はMann-WhitneyのU検定を,快適歩行Aと快適歩行BのCVの比較はWilcoxonの符号付順位和検定をそれぞれ用いた.各項目の相関関係はSpearmanの順位相関係数にて検討し,有意水準は5%とした.
【結果】
SEは,健常群の方が大きい傾向にあったが有意差を認めなかった.PD群と健常群のCVはそれぞれ,快適歩行Aで34.18,19.66,快適歩行Bで31.27,14.59,-20%で48.48,29.59と,PD群が有意に大きかった(p<0.05).CVを,各群の音刺激の有無で比較すると,快適歩行Bで健常群は有意に減少した(p<0.05)が,PD群ではCVが減少した者と増加した者がおり,有意差を認めなかった.
快適歩行BのSEとUPDRSのADL項目との間,快適歩行BのCVと罹患期間との間にそれぞれ有意な正の相関を認めた(p<0.05).また,快適歩行AのCVから快適歩行BのCVを引いた値と,UPDRSのADL項目との間に有意な負の相関(p<0.05)を,重心の最大移動距離との間には正の相関を認めた(r=0.64).
【考察】
罹患期間の長い患者やADLが低下しているPD患者では,音刺激を利用し一定のリズムを保って歩くことは困難であることが分かった.PDの歩行のリズム形成において,音刺激による改善の可能性がある患者を見極めるとともに,関連が示唆されるバランス能力の低下にも着目する必要があると考えた.