抄録
【目的】ペーシング障害は何か作業を行うと性急に行動してしまい、その制御ができない状態で、右半球損傷例に多くみられるとされている。しかし具体的な症候や評価は曖昧な点が多いと感じる。今回、現在提案されている評価の方法と臨床での観察評価の関係、および障害部位に関して調査したので報告する。
【対象】無作為抽出した当院に入院または外来加療中の検査の主旨と方法が理解できる脳血管障害後片麻痺者38名。男性26名、女性12名、右利き37名、左利き1名、右片麻痺17名、左片麻痺21名、年齢66.3±10.6歳、発症後期間185.3±271.2日、脳梗塞例18名、脳出血例18名、くも膜下出血例2名であった。対象者は麻痺側別に2群に分類し、それぞれ右片麻痺群、左片麻痺群とした。右片麻痺者の中に1名左利きがいたが臨床症状から側性化が反対であると判断し、便宜上左片麻痺者として扱うことにした。 右片麻痺群、左片麻痺群の間に年齢、発症後期間の差は認められなかった。対象者にはあらかじめ口答で研究の主旨を伝え、了承を得た。
【方法】平林らの考案した図形のトレース検査(以下トレース検査)を実施。対象者のうち10名に再現性を確認するため翌日再検査を行った。同時に対象者の日常生活でのペーシングの状態を検者が聴取した。また、対象者の画像所見から障害部位の確認を行った。
【結果】1)トレース検査上、陽性になったのは右片麻痺群16名中7名、左片麻痺群22名中12名で両群の間に差は認められなかった。2)行動面でペーシングに問題があると評価されたのは、右片麻痺群16名中1名、左片麻痺群22名中8名で、トレース検査の結果に比べ、少なかった。3)検者にペーシングに問題ありと評価された対象者のうち、トレース検査でも陽性になったのは右片麻痺群1名中1名、左片麻痺群8名中7名であった。4)トレース検査でも検者の評価でも陽性になった対象者の障害部位は被殻出血4名、視床出血1名、中大脳動脈流域の脳梗塞2名、大脳基底核を中心とした多発性梗塞2名であった。5)対象者10名に実施したテストの再現性は、ICC 0.93であった。
【まとめ】今回の結果、トレース検査では本来陽性でないものも検出されてしまう可能性が示された。一方で、検者の聴取、観察による行動評価も明らかな規定があるわけではなく、今後ペーシング障害を評価していくためには、机上の検査とともに行動評価に関しても規定していく必要があると考えられた。トレース検査に関しては、その再現性は高かったことから、症例の変化を追うためには有用である可能性があると考えた。責任病巣に関しては、平林らは中大脳動脈流域の中でも前大脳動脈領域に近い前頭葉の病巣が重要と述べているが、両側性障害や、脳の機能連関の観点からさらに検討していく必要があると思われた。