抄録
【はじめに】くも膜下出血(以下SAH)の機能予後や治療上問題となるのは、初回の出血等による脳損傷や再出血と共に、血管性攣縮による脳障害やその後の水頭症発症があげられる。そのため、それらの予防を優先した呼吸や血圧の管理、頭蓋内圧に配慮した体位管理、脱水に配慮した輸液等の管理的治療が必要とされ、他の脳血管疾患と比べ臥床期間が長期化することがある。しかし高齢者においては、臥床の長期化による意識障害の遷延や、それに続く肺炎等の合併症が問題となってくる。このような高齢SAH患者に対して、それらの管理的治療を考慮して、早期離床を図ることは重要である。我々は高齢SAH術後患者に対して、管理的治療を考慮した早期理学療法(以下早期PT)実施し良好な結果を得たので一考察を加え報告する。
【対象と方法】2002年4月から2003年3月に当院にて術後PTを実施した7例(以下従来群)と、2003年4月から2004年3月までに早期PTを実施した7例(以下対象群)とし、全て70歳以上の高齢者であり両群とも平均年齢74.9歳であった。SAH重症度分類(WFNS分類)グレードV、死亡例は除外した。比較は術後からのPT開始日数、座位開始日数、車椅子乗車開始日数、在院日数、歩行獲得率、自宅退院率とした。
【結果】PT開始日数は従来群平均7.6日/対象群4.3日、座位開始日数は5.9日/1.9日、車椅子乗車開始日数は22.0日/9.1日、在院日数は116.6日/71.7日、歩行獲得率は71.4%/100%、自宅退院率は28.6%/100%であった。
【考察】SAH術後患者では血管性攣縮発生の予測を念頭に置き早期PTを実施する事が重要である。血管性攣縮は発症後4から14日目までに起き、見当識障害、意識障害で発生し脳局在症状が出現する。術直後は体力の改善と離床による意識状態の改善が必要となる。対象群においては呼吸訓練や座位訓練を中心とし、加えて保水の促進等の全身管理に注意した。また、意識状態の改善と共にプログラム負荷量の向上、体力の改善を行ったことにより、座位開始日数の短縮となった。血管性攣縮期では意識状態悪化による肺炎等の合併症の予防に努める必要がある。対象群では機能維持を目的とし、動作レベルの向上は図らず病室内で低負荷・高頻度でのPTを実施した。脳血管性攣縮期の終期では体力の改善と活動量を向上させる必要があり、対象群ではPT室へのPTに変更し、運動機能向上を目的としたプログラムに変更した。脳血管性攣縮期後では水頭症徴候出現の有無に注意が必要となる。対象群では在宅復帰に向けた積極的なプログラムに変更した。発症前の身体機能再獲得を目標に、ADL指導、応用歩行練習を実施したことにより、歩行獲得率の向上、早期自宅退院に結びついたと考えられる。