抄録
【はじめに】脳卒中片麻痺患者の上肢機能回復のためのTherapy Robot(マサチューセッツ工科大学製InMotion2、以下TR)を日本で初めて導入した。幾つか症例を経験して、その臨床観察と対象者から得た回答を通して、脳損傷者の運動学習過程について考えられる点を報告する。
【対象】院内規定の説明と同意を得た脳卒中片麻痺患者9名(男8、女1、脳出血4、脳梗塞5)。平均年齢66±14歳。発症後平均日数101±69日。Fugl-Meyer上肢運動機能平均点数27.9±24点。肩の痛み、コミュニケーション能力、知的面において問題のない者。
【方法】対象者はモニター画面とテーブルの前に設置された専用椅子に端坐位をとり、コンピュータで制御されるアームの先端に取り付けられた前腕支持台に肘、前腕、手首を固定される。モニター画面に映し出される、円の中心点と8方向を結ぶポイント間を移動するターゲットをヒットするため、上肢の平面上のリーチ運動(上肢の描く円は半径15cm)が行われる。TR内蔵のプロトコルはトレーニングと評価で構成される。基本的なトレーニングは、対象者のレベルに応じて機械が力と運動方向を適合してポイント間運動を20周するadaptive運動からなる。評価は円運動、ポイント間運動、抵抗運動等を行い、その位置、速度、トルク等を記録する。トレーニングプロトコルは1日40分、週6日の頻度で6週間行う。6週間の前後と中間に評価プロトコルを実施する。臨床観察より変化の認められた対象者に適時質問を行う。また各課題に要する時間を測定する。
【結果】対象者全員が6週間のプログラムを終了した。対象者9名の内、全てのポイント間運動が可能になった者、adaptiveに要する時間が1/2になった者が3名いた。彼らの麻痺側上肢は共同運動に支配されていたが、臨床観察上、共同運動の分離が見られ明らかにリーチ運動の改善が認められる瞬間があった。その時に、「どのように運動が分かり始めたのか。」という質問を行ったところ、その3名より「筋肉の引き伸ばされてる感じがわかる。」「力の抜き方がわかってきた。」等、自己の運動学習についてこちらの期待する回答が得られた。これらの改善時期はTRで記録されたデータとも一致するものであった。
【考察】TRを実施した時の臨床観察と対象者の回答、その時のデータより、運動学習とは現実に起こる関節運動と筋の伸張感や過緊張筋の緩和といった筋感覚、すなわち固有感覚が適合した時になされるのではないかということが考えられた。8方向に統一された単純化した繰り返し運動は、脳損傷のある人にとって情報を整理するのに役立つものと思われる。TRによって繰り返し行われる固有感覚へのアプローチが運動学習を引き起こし、随意的な筋活動を、ひいてはリーチ運動の出現を促すのではないかと思われる。