抄録
【はじめに】近年EBPTの観点から心身機能と活動との関係を明らかにする動きが高まる中、起き上がり動作は多種多様なパターンにて行われることより、その獲得予測は臨床経験に依存することが多い。今回、我々は脳血管障害患者を対象に非麻痺側側臥位から端坐位と一連の動作という起き上がりパターンに限定し、心身機能面との関連性について検討したので報告する。
【対象と方法】平成16年7月から9月に当院に入院した初回発症の脳血管障害患者のうち発症時に外傷を伴った患者を除外した21名を対象とした。性別は男性11名・女性10名、平均年齢は70.1±10.67歳、診断名は脳梗塞15名・脳出血6名で、右片麻痺6名・左片麻痺15名であった。調査項目は、起き上がり動作の介助の有無ならびに介助内容、寝返り動作での介助の有無、さらに坐位機能として坐位保持時間と介助の有無を評価した。また機能面としては、痴呆の有無、高次脳機能、Brunnstrom's motor recovery stage(以下BRS)、非麻痺側上下肢・頚部・体幹・下肢-骨盤の筋力、立ち直り反応と連合反応、関節可動域、位置覚・運動覚の評価を併せて実施した。統計学的分析はχ2検定を用いた。
【結果】起き上がりに何らかの介助を要する介助群は11名、介助を要しない自立群は10名であった。起き上がり能力と関連がみられた項目は、BRS(p<0.05)、半側空間無視(以下USN)(p<0.01)、筋力面では非麻痺側下肢(p<0.01)・体幹前屈(p<0.01)・非麻痺側への回旋(p<0.05)・側屈(p<0.01)・両下肢挙上(p<0.01)・骨盤回旋(p<0.05)であった。一方、性別、年齢、麻痺側、坐位保持機能、痴呆、麻痺側への回旋筋力、失行・失認の有無との間では関連性を認めなかった。また反射・反応、位置覚・運動覚、関節可動域については問題を有する対象者が少なく統計的検討に含めることは出来なかった。
【考察】今回臨床では多種多様なパターンで行われている起き上がり動作を、「側臥位から端坐位」という片麻痺患者の一般的な動作手順に限定して諸要因との関連性を検討した。その結果、起き上がり動作が自立に至るためにはBRS、USNの有無、頚部・体幹・非麻痺側下肢・下肢-骨盤周囲筋の筋力が指標となることが示唆された。麻痺の回復ならびにUSNの改善は、動作遂行における先駆的能力として重要と考えられる。そしてこれに加えて、体幹を安定させ重心を抗重力位まで移動させるのに必要な頚部・体幹の前屈・側屈・回旋の筋力の獲得やカウンターウェイトとして活用可能な非麻痺側下肢筋力の獲得を図る必要性が示唆された。さらに、動きの支点を構築するためにも、下肢・骨盤の安定性・協調性の獲得も必要であると考える。これら起き上がり能力と関連性の高い能力に対してアプローチすることで、早期の起き上がり能力の獲得につながるものと考える。