抄録
【目的】副神経の機能としては、運動神経で主に脊髄根として胸鎖乳突筋および上部僧帽筋を支配している。また、文献によると一側の核上性障害の場合は両側支配であるため目立った麻痺とはならないとか、胸鎖乳突筋は同側支配で僧帽筋は対側支配であるというように、核上性副神経の臨床症状については、十分な記載がされておらず文献によってまちまちであり、統一されていない。
今回、脳卒中片麻痺患者において、脳神経の核上性副神経障害に関して調査し、若干の知見を得たので報告する。
【対象】対象は、調査の内容に関して同意をし、協力してくれた脳卒中片麻痺患者17名(男11名、女6名)とした。ちなみに、頚部傷害による末梢性の副神経障害や両側障害となる多発性脳梗塞患者は対象から除外した。
【方法】方法は、上部僧帽筋の機能評価としては、肩甲骨を垂直方向に挙上してもらい、その挙上範囲を全可動域の4分1以下、4分の2以下、4分の3以下、ほぼ正常とし、ほぼ正常患者のみMMTを実施した。また、4分の3以下の肩甲骨挙上が困難な者は核上性(中枢性)の麻痺があるものとした。
胸鎖乳突筋の機能評価に関しても僧帽筋と同様な判定基準を使用した。そして右の胸鎖乳突筋の機能の場合は左への頭部回旋をその主動作として用いた。
【結果】胸鎖乳突筋の機能に関しては、全例回旋が左右差なく可能で、筋力においても正常だった。一方、上部僧帽筋の機能に関しては、特に手指・上肢の麻痺の程度と同様の傾向を示しており、全般的に麻痺が重度の患者は肩甲骨の挙上もほとんど不可能であり、軽度の患者は肩甲帯の挙上も多く出来ていた。また、肩甲骨挙上が正常範囲の患者の中には麻痺がなく筋力も正常の者もいた。
【考察】文献的には、副神経に関する核上性麻痺の記述について種々見られるが、今回の結果から、胸鎖乳突筋に関しては文献どおり両側支配であるが、上部僧帽筋に関しては、対側による一側支配と考えられる。また、上部僧帽筋の麻痺の程度は手指・上肢の片麻痺の程度に比例しており、これは、手指・上肢の伝導路である皮質脊髄路と脳神経の伝導路である皮質延髄路とが接近しているため障害が近似しているものと推測される。今後症例数を増やすと同時に、MRI等による局所診断と臨床症状をさらに突き合わせて精度を高めていきたいと思う。