抄録
【目的】歩行が自立しない患者にとって、移乗動作の自立が困難であるということは、在宅での家族の介助量や、しいては患者の転帰先を決定しかねない大きな要素である。そこで、初期評価時において、退院時までに移乗動作能力の向上は期待されるが、自立困難とPTが予測した要因について分析を試みた。
【対象と方法】平成16年8月1日~平成16年11月11日までに当センターに入院した患者の中で、脳卒中患者を無作為に35名抽出した。その中より、退院時までに移乗動作能力の向上は見込まれるが、自立困難と予測された患者10名を分析の対象とした。阻害要因の選定は、主に脳卒中患者を担当しているPT6名が移乗動作能力に影響すると考えられる要因を出し合い、その項目を整理した。その要因を用いて先のPT6名にアンケート調査し、その結果をまとめた。なお、患者の平均年齢は61.3±13.5歳、右片麻痺3名左片麻痺7名、下肢のBr.stageは2が7名、3が3名、発症から初期評価までの期間は60±21.1日であった。
【結果と考察】アンケートより、移乗動作自立の阻害要因を出現頻度と影響力の2つの側面から分類した。その結果、出現頻度が高く、かつ影響力が高い要因としては、立位バランス能力、下肢の麻痺、注意力障害があげられた。立位バランス能力は、非麻痺側機能や体幹の機能、立ち直り反射など複数の要因を反映しているため、影響力が高いと考えられた。下肢の麻痺については、移乗動作の自立に影響しないと予測していたのだが、今回の調査では影響が大きい要因として挙げられた。これは、麻痺側下肢での支持が可能であれば、回旋動作をする際に踏み直すことも可能になり、その結果、移乗動作の安定性が向上するためと考えられた。また、注意力障害は、動作の安全性に関わる要因であり、自立を阻害する影響力が高いのも妥当であると考えられた。次に、出現頻度が低いが、影響力が高い要因としては、Pusher症候群、肥満、痴呆、呼吸器・循環器疾患、疼痛、意欲低下などがあげられた。Pusher症候群は、半側空間失認や身体失認、注意力障害など移乗動作に関わる要因が複数含まれているため影響力が大きいと考えられた。肥満は自己の体重を支える事が困難になり、痴呆、意欲低下は移乗動作自体の学習が阻害されるため自立の阻害要因として影響力が高いと考えられた。重篤な呼吸器・循環器疾患は運動量の制限があり、移乗動作自体も制約され、疼痛はその動作自体を困難にするため、移乗動作自立の阻害因子として影響力が高いと考えられた。一方、出現頻度は高いが、影響力が低い項目として、年齢があげられた。年齢という要因は、移乗動作に関わる脳卒中特有の問題点や個体差の大きい個人の機能を反映しづらいため、影響力が低いと考えられた。今後は、予測を退院時の結果と照らし合わせ、その阻害要因の妥当性を更に検討していく必要があると考えられた。