抄録
【目的】Parkinson病(以下PD)では、L-dopa長期使用例や姿勢反射障害の強い症例にすくみ足や小刻み歩行が出現することが多い。しかし観察上は姿勢や歩行に異常が見られない軽症PD患者においても、歩行時の下肢の振り出し難さを訴える症例は多い。本研究の目的はそのような患者の自覚症状の原因を検討することである。
【方法】対象は本研究に参加同意の得られた観察上すくみ足や小刻み歩行の見られないPD患者6名(男女各3名、平均年齢66歳、罹患年数平均4.2年、Hoehn-Yahr Stage1)と健常高齢者(以下N群)6名(男女各3名、平均年齢68歳)であった。被験者の体表面に赤外線反射マーカーを装着し、三次元動作解析システム(VICON612、AMTI社製床反力計)により歩行解析を行った。解析項目は、矢状面上に投影された体幹傾斜角度(前傾を+)、体幹屈曲伸展モーメント、股関節屈曲伸展モーメントとした。
【結果】体幹前傾角度は踵接地(以下HC)で最大となりN群2.4±0.5°、PD群2.6±0.8°であった。後傾角度は立脚中期で最大となり、N群が-0.5±0.2°、PD群1.1±0.4°(*)であった。体幹モーメントはHC後の伸展モーメントがN群0.5±0.08 Nm/kg、PD群0.8±0.1 Nm/kg(*)であった。股関節モーメントは立脚初期の伸展モーメントがN群0.8±0.13 Nm/kg、PD群0.9±0.2Nm/kgとなり、立脚後期の屈曲モーメントがN群1.2±0.3Nm/kg、PD群0.9±0.4Nm/kg(*)となった。また立脚期を100%としたときの股関節進展モーメントから屈曲モーメントへの移行点は、N群平均67%、PD群平均78%(*)であった。(*:p<0.05)
【考察】重症PD患者は前屈姿勢を呈することは多いが、これは腹筋群の収縮によるものではなく最も強く作用しているのは重力である。先行研究では前屈姿勢が顕著なPD患者は、立位時に腹筋群よりもむしろ脊柱起立筋群の筋活動が大きいとされる。今回のPD群が、N群と比べてHC後の体幹伸展モーメントが大きく、その後の後傾角度が大きくなるのは、立脚初期に発生する床反力の股関節屈曲方向モーメントと重力による体幹前傾に対する過剰な力学的対応と考えらえる。さらに立脚期の股関節モーメントの伸展から屈曲への移行点がN群67%対し、PD群は78%となりその後の屈曲モーメントがN群と比較して小さくなっている。これはPD群が股関節伸展モーメントに依存して推進力を得ていることに加え、体幹の前傾を防いでいるとも考えられる。このようにPD患者は、軽症時から歩行時に重力に対して上体をuprightに保とうとする作用が常に大きく、屈曲のモーメントが得られにくい。このことが下肢の振り出しの妨げとなり、自覚症状に結びついていると考えられる。