抄録
【目的】将来、一人で歩けるようになるかどうかが排泄の自立や退院先に直接的に関与する理学療法場面において歩行獲得の可否やそれに要する期間は患者・家族の肉体的・経済的負担を大きく左右するため治療者のみならず最大の関心事となる。本稿では歩行獲得に要する期間を予測する目的で初期評価時の情報から要因の解明と予測式の構築を試みた。
【方法】対象は1994年4月から2004年4月迄当院で入院治療し初期評価時、自立歩行不能だった発症1ヶ月以内の脳卒中患者139例のうち屋内歩行が自立した63例(年齢70.6±9.1歳)である。理学療法(以下PT)開始から退院迄の日数(以下、歩行獲得日数)を従属変数、年齢・性別・病型・理解力・下肢Br.stage(以下stage)・麻痺側・発症-PT開始期間・意識障害・心疾患・関節覚脱失・肥満・半側空間無視・pusher症候群・失調症・めまい・構音障害・失語症の各々の有無・経口摂取の可否の18項目を独立変数としたStepwise重回帰分析(F値3.0)に加え、変数毎に実際の歩行獲得日数の群別比較を平均値・箱ヒゲ図(中央値・四分位範囲)等、変数の分布型から視覚的に行ない統計学的解析結果との整合性を確認した。解析にはStatView5.0を用い、棄却域を5%未満とした。なお変数は全て順序尺度化し、多発性脳硬塞・パーキンソン病・両側麻痺例は除外した。
【結果】解析の結果、年齢・stage・発症-PT開始期間・構音障害が選択され予測式は、歩行獲得日数=0.929×年齢+(-19.892)×stage+1.387×発症-PT開始期間+17.753×構音障害+76.633となった。これはp<0.001 (F値=21.9、R=0.71、R2 =0.5)で有意であった。変数の分布型は高齢になるに従い、stageは低くなるに従い、PT開始は遅くなるに従い、構音障害は「なし」に比べ「あり」で正の相関を示し解析結果を支持する結果となった。平均歩行獲得日数は屋外自立群で57.6日(約2ヶ月)、屋内自立群で74.1日(2.5ヶ月)となり屋内自立群で16.5日(約半月)長く要した。
【考察】歩行獲得期間には年齢・stage・発症-PT開始期間・構音障害が関与することが明らかになった。年齢は脳の可塑性や体力的予備能を反映し加齢とともに低下する。内科的合併症や痴呆の増加も負の要因として報告されている。麻痺は錐体路障害の状態を説明している。軽症例は一般に離床の阻害因子となる重篤な合併症が少なく早期から積極的な歩行練習へと移行しやすい。これはPT開始迄の日数短縮にも貢献し廃用予防の観点からも歩行獲得に有利に働く。二木は麻痺の回復について片麻痺患者の95%は発症後3ヶ月でプラトーに達したとしており歩行獲得期間へのstageの関与を示唆するものである。なお構音障害については関与の理由は不明である。今後は臨床応用に向け多施設間での検証を検討している。