抄録
【目的】
脳卒中片麻痺患者に対して,32項目の歩行移動動作の評価を行ってきた.その結果,対象症例とテスト項目を増加させてもテスト得点の総和を使って対象症例の全般的重症度を順序づけられることが認められた.しかし,テスト項目を増しても,歩行移動動作障害を特徴づける重症度以外の指標は見出せなかった.
これらのことは重症度を判定するだけであれば、テスト項目数をさらに減らすことができることを示唆していると考えられた。そこで少数のテスト項目を選んで効率のよい重症度評価テストバッテリーを,統計的操作と臨床像からの妥当性の点から抽出した.
【方法】
179例の脳卒中後の片麻痺患者を対象に32項目の歩行移動動作テスト,総合評価を実施し,その得点を主成分分析(PCA)し,その後Cronbachのアルファ信頼性係数を用いて項目の削減を行った.32項目の得点総和,総合評定,削減後の相関係数をもとに妥当性の点から検討した.
【結果】
PCAの結果,従来の報告のとおり32のテスト項目は,共通成分が重症度という1成分でまとめられる事が示され,テスト得点の総和で障害の重症度を示すことが可能であった.Cronbachのアルファ係数と臨床的な性格を参考にしてテスト項目を選択し,7項目からなるテストバッテリーが抽出可能であった.7項目の総和と,32項目の総和,22項目の総和および総合評価との相関係数はそれぞれ0.982, 0.988, 0.823であった.
【考察】
テストバッテリーの構成項目を32項目から7項目にまで減らしても十分高い精度があり,より少ない項目で効率的に重症度を評価できることを示していると考えられた.しかし今回使用したテスト項目や評価基準では,「下肢の安定性」,「踏み出し機能」,「全身バランス」など運動機能の評価も期待していたが適切な評価が難しいことが示された.