抄録
【はじめに】
脳卒中片麻痺者の日常生活活動(以下ADL)は、上肢の残存能力、麻痺側上肢が利き手か否か、非麻痺側上下肢の機能、コミュニケーション障害、高次脳機能障害など、個体機能や環境など多くの因子が影響を与える。体幹機能の影響も指摘されているが、体幹機能とADLとの関係を詳細に検証している研究は少ない。そこで、本研究では臨床的体幹機能検査(FACT)を用いて脳卒中片麻痺者の体幹機能とADLとの関係を明らかにすることを目的とする。
【対象】
2004年5月にR院に在院した脳卒中片麻痺者56名(男性38名・女性18名・平均66.3±10.7歳)であった。病型の内訳は脳出血30例、脳梗塞26例、麻痺側は右片麻痺27例、左片麻痺28例、両麻痺1例、発症日から測定日までの平均は94.7±50.2日であった。
【方法】
1.検査課題:ADLはFIM(Functional Independence Measure)を用いて126点満点にて、体幹機能はFACTを用いて20点満点にて評価した。加えて、麻痺側上下肢機能をBrunnstrom recovery stage(以下BRS)を用いて6段階で評価した。
2.解析手順:FIMの合計および運動項目・認知項目と、FACT、BRS(上肢、手指、下肢)との相関をスピアマンの順位相関係数を用いて検討した。
【結果】
FIM合計とFACT、BRS上肢・手指・下肢のそれぞれの相関は順に、0.81、0.54、0.50、0.63であり、体幹機能との相関係数が一番高かった。FIM運動項目とFACT、BRS上肢・手指・下肢の相関は、0.85、0.58、0.54、0.72と合計点と同様に体幹機能との相関係数が一番高かった。また、FIM認知項目とFACT、BRS上肢・手指・下肢との相関は、0.55、0.34、0.30、0.34で、FIM合計やFIM運動項目に比べて相関係数は低くなった。しかし、FACTだけは有意水準1%で相関が認められた。
【考察】
ADLには身体機能として麻痺側上肢機能よりも体幹機能が強い関係があることが明らかになった。また、体幹機能はADLの運動機能と関係があるだけでなく、認知機能とも関係があることも示された。本研究結果から、ADLは体幹機能・麻痺側機能の全てと相関があり、ADL獲得のためには麻痺側機能だけでなく、体幹機能にも注目した治療を十分に行う必要が示唆された。