抄録
【はじめに】脳卒中片麻痺を発症後、回復期以降、時間が経過するにつれて痙縮の進行を経験することがある。姿勢筋緊張の代償として麻痺側上下肢近位部の過剰努力と、そして、運動麻痺起因の不動による持続的筋短縮が合併する事により、筋拘縮の進行及び筋緊張の亢進がもたらされ、痙縮を進行させていると考える。今回、維持期片麻痺患者に対して、非神経学的要素である筋の粘弾性改善目的に筋膜リリースを麻痺側胸部筋群(大胸筋・小胸筋)に実施し、その効果を肩関節可動域及び、起き上がり動作速度の変化より検証した。
【対象】外来通院中の脳卒中片麻痺患者25名(男性18名、女性7名、平均年齢64.7±7.8歳、左片麻痺15名、右片麻痺10名、脳梗塞14名、脳出血11名)を対象とした。発症後平均経過期間は、6年8ヶ月(±5年6ヶ月)であった。麻痺側上肢の状態は、Brunnstrom stageが、2:6名、3:11名、4:4名、5:4名、Modified Ashworth Scaleが、3:5名、2:10名、1+:5名、1:5名、表在感覚障害が、脱失9名、鈍麻11名、正常5名であった。
【方法】筋膜リリース導入治療法〔以下A法〕と非導入従来型治療法〔(ROM exとADLトレーニング)以下B法〕を別日に実施、治療前後に評価を行った。評価項目は、麻痺側肩外転ROM、起き上がり速度(背臥位から長座位完了までの時間を映像からDV Gate Plusを使用し算出)、対象者が治療前後の起き上がり動作の動き易さを主観的段階付け評価(5を著変無とする10段階)、10m歩行速度測定を行った。統計学的手法には、対応のあるt検定、Welchの検定、Wilcoxonの順位和検定を用い、有意水準5%未満とした。
【結果】肩ROMは、治療前60°~180°が治療後、A法90°~180°、B法80°~180°、両治療法の改善率に有意差を認めた。起き上がり速度は、治療前3.53秒~14.20秒が治療後、A法2.93秒~7.93秒、B法3.50秒~28.67秒、両治療法の速度間に有意差を認めた。また、A法は、治療前後間変化においても肩ROM及び、起き上がり速度に有意差を認めた。主観的段階付け評価は、A法5~9、B法4~6、両治療法の評価値に有意差を認めた。10m歩行速度は、両治療法に有意差を認めなかった。
【考察】痙縮の要素には、神経学的要素と非神経学的要素が混在していると考えられるが、今回の結果より、維持期片麻痺患者に筋膜リリースを導入する事は、筋・筋膜の念弾性が改善、痙縮により阻害されていた筋活動を行い易くすると考える。痙縮が緩和される事により身体動作が円滑になったことは、対象者自身が動き易さとして知覚しており、これは、Self efficasyを高めるにも有効と考える。今回は、準備的理学療法の観点から、胸部筋群への筋膜リリース実施による効果の検証を行ったが、さらに、肩甲帯への導入や、患者の能動的な運動療法を取り入れる事により、より良い効果が期待できるのではないかと考える。