抄録
【目的】
変形性股関節症(Hip OA)は高率に歩容異常を呈する整形外科的疾患の一つである。我々は歩行中の体重心加速度に波形解析を加え、歩行の滑らかさ、動揺性、対称性を表す歩容指標を作成した。これら歩容指標は、hip scoreやX線重症度などの臨床指標や歩行関連指標と有意に相関しており、歩容異常の程度を示す妥当性を有することを確認している。過去の報告によると、Hip OA患者の歩容異常には外転トルクの低下、脚長差、屈曲拘縮、内転拘縮、疼痛などの関与が推測されている。経験上、多くのHip OA患者は、複数の機能障害を有しており、それらは相互に関連しているため、個々の機能障害の歩容異常に与える影響を検討するには多変量解析が必要である。本研究では、Hip OA患者のどのような機能障害が歩容異常の重症化に強く影響しているのかを明らかにする目的で、上述の歩容指標と機能障害との関連性を重回帰分析により検討を行った。
【方法】
対象は、片側変形性股関節症患者50名(年齢;51±11歳、Harris hip score;75±11)である。15mの平地自由歩行中の体重心加速度を測定し、power-spectrum解析(PS)、root mean square(RMS)、自己相関分析(AC)を加えた。各波形解析により滑らかさ、動揺性、対称性の指標が算出される。これら歩容指標と機能障害(トレンデレンブルグサイン(T-sign)の有無、脚長差、屈曲拘縮、内転拘縮、疼痛)との関連性を検討するため、従属変数に歩容指標、独立変数に機能障害を投入した重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。
【結果および考察】
滑らかさでは3軸成分とも、屈曲拘縮、疼痛が抽出され、寄与率であるR2は前後成分で0.25、側方成分で0.30、垂直成分で0.21であった。動揺性では側方成分で脚長差と屈曲拘縮が、垂直成分で屈曲拘縮が抽出され、R2は前者で0.21、後者で0.12であった。対称性では前後成分で脚長差と内転拘縮が抽出され、R2は0.44であった。側方成分と垂直成分では内転拘縮のみが抽出され、R2は両者とも0.39であった。T-signは、いずれの歩容指標にも有意な関連要因として抽出されなかった。寄与率の高かった対称性の指標では、脚長差と内転拘縮が抽出されたことから墜落性跛行との関連が強いと考えられる。体重心加速度の測定では、デュシェンヌ跛行のような体幹の動きを捉えられない可能性があり、そのためT-signが選択されなかったのではないかと考えた。
【結語】
Hip OA患者の歩容異常には、屈曲・内転拘縮、脚長差、疼痛の改善が必要で関与している。歩容異常の改善には、これら機能障害にアプローチすることが重要である。