抄録
【目的】近年、急性期病院では在院日数が短縮化される傾向にあり、地域完結型医療に基づきより早期に自宅退院可能か否かの判断が必要となっている。当院では人工股関節全置換術に対して術後21日目で自宅退院とするクリティカルパスを使用している。今回術後21日で自宅退院可能かどうかを術前に予測を試みたので報告する。
【対象】2003年2月から2004年5月までに当院にてTHAを施行した57例(年齢66.1±11.1歳、女性50例、男性7例)である。
【方法】術前における自宅退院の判断基準としては院内ADLが自立するために必要と予測される9項目(禁忌肢位の理解、術前ADL状況、転倒歴、術後ADL理解、呼吸循環、歩行耐久性、上肢可動域制限、活動性、他関節疼痛)について評価基準を設け、術前よりそれに達していない項目をバリアンスとした。術前バリアンスの有無、術前バリアンス各項目を点数化したバリアンス得点と、在院日数、転帰、日本整形外科学会股関節機能判定基準(以下日整会)と比較検討した。また自宅退院群と転院群とで術前の身体能力(疼痛、ROM、MMT、歩行能力、FIM)の差異を比較検討した。統計処理はwindows版STATISTICAを用い、危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】THA施行57例中、自宅退院群49例(65.5±11.5歳)、転院群8例(70.1±7.5歳)であり、自宅退院群と転院群で年齢および疾患には差を認めなかった。術前バリアンスの有無では在院日数、転帰および日整会得点には有意な差は認められなかった。バリアンス項目毎では、呼吸循環、歩行耐久性、上肢可動域制限、活動性、他関節疼痛の5項目でのバリアンスの有無では日整会得点に有意な差を認めた。術前バリアンス得点と日整会得点の相関係数はr=-0.45(p<0.01)であり、5項目バリアンス得点と日整会得点の相関係数はr=-0.55(p<0.01)であった。また、日整会得点と転帰、在院日数にも相関は認められなかった。転帰による術前の身体能力については大殿筋筋力にのみ転院群と有意な差を認めた(自宅退院群>転院群)。
【考察】術前バリアンス評価の目的は、術前の身体能力が退院基準以上であるかを判定することで、術後21日目での転帰を術前から予測することである。今回術前バリアンス評価から自宅退院可能か否かの予測は困難であるという結果が得られた。一方、日整会得点とバリアンス得点に有意な相関を認めたが、日整会得点と転帰に差が認められなかったことからも、転帰予測としては術前身体能力以外の因子が関与していると考える。今後は術前バリアンス評価の項目および評価方法を再検討する必要があると考える。また自宅退院を考えるならば、自宅の環境など社会的背景や性格的特性などの要因も関与してくると考えられ、今後はこれらをふまえ検討していく必要があると考える。