抄録
【目的】顎関節症に対する理学療法を行う場合,開口距離や下顎の変位,咬合力は定量的な評価が可能であるが,症状や違和感,顎関節の副運動などは定性的な評価が一般的に行われる.特に顎関節の副運動は検者が感じ取るend feelによって評価されるが,end feelは検者によって感じ方が違うことがある.しかしend feelの評価如何によって治療プログラム,治療成績にも影響を及ぼすことがあるため,理学療法の効果をさらに高めるためには,end feelを何らかの形で定量的な評価とする試みが必要である.今回,体表に近く比較的触診の行いやすい顎関節を対象に,徒手的に行った副運動の評価と機械を用いて測定した押し込み量-荷重関係を比較し,顎関節の副運動を定量的に数値として表すことができるか検討したので報告する.
【対象および方法】開口時に下顎がどちらか一方に変位する大学21名を対象とした.対象に文書で同意を得た後,まず顎関節の横方向の副運動を触診にて評価し,「硬い」,「動く」,「よく動く」,「大変よく動く」の4段階に分類した.触診は日頃より徒手療法を行っている理学療法士によって行われた.押し込み量-荷重関係はビーナストロン(AXIOM社製)を用いて測定し,顎関節関節裂隙より1横指下の下顎枝にプローブを当て,皮膚に接触してから7mm押し込むよう設定した.ビーナストロンでの測定は3回行い,皮膚に接してから5mm押し込んだところの値を算出し,3回の平均値を代表値とした.なお,触診を行う検者と,ビーナストロンを用いて測定する検者は別とし,single blindとなるように配慮した.
【結果および考察】21名のうち16名の被検者で測定が可能であった。押し込み量5mmでの荷重は31.4~115.0gであったが,触診での「硬い」~「大変よく動く」を反映した結果とはならなかった。また,顎関節の左右を比較し,触診でより動きが少ないと判定された関節の荷重量が大きかった被検者は10名で,カイ2乗検定の結果,相対的にでも硬さを判定することはできなかった。関節の副運動を定量的に評価する方法として膝関節の前方動揺性の評価は,ある程度確立されているが,他の関節では未だ触診に頼らざるを得ないのが現状である。今回,押し込み量-荷重関係を測定可能なビーナストロンを用いて,副運動の定量化を試みたが個人差があり,絶対値として評価することはできなかった。今回の測定では押し込み量を一定としたが,膝の前方動揺性の評価のように荷重量を一定とした評価であれば,定量化できる可能性がある。また,同じ横方向の副運動を測定しているといっても,触診での評価とビーナストロンでの評価では実際の動きが異なっており,今後さらに測定方法に工夫を加えていく必要がある。