抄録
【はじめに】筋伸張運動が筋硬度を改善させることは広く知られている。松橋らは、その効果は健常者に対し、伸張後も持続することを示しており、藤原らは痙性麻痺に対し、Tilt Tableを用い下腿三頭筋を伸張し、有効な持続時間があることを証明している。だが、運動後、伸張強度が与える影響について書かれたものは散見する程度であり、運動療法施行上、核心が無いままで行われているのが現実である。そこで、今回、運動負荷後、異なった強度での伸張運動を行い、若干の知見を得たので報告する。
【対象と方法】対象は健常男子大学生24名、平均年齢20.6±2.1であった。対象者全員の右腓腹筋に対し、最初に筋硬度を測定し、2分間の両足つま先立ちを1分間48回のペースで行わせ、終了後、2度目の筋硬度を測定した。次に傾斜角度80°のTilt Tableに1分間立たせ、その後、3度目の筋硬度を測定した。この時、1つ目のグループ8名(以下A群)では背屈10°に、2つ目のグループ8名(以下B群)では背屈20°に設定した。更に、3つ目のグループ8名(以下C群)ではTilt Tableに換わり、徒手による最大限の筋伸張を行い、3度目の筋硬度を測定した。
筋弾性計はヘンリージャパン社製Muscle Meter PEK-1を使用した。統計処理は運動後と筋伸張後の筋硬度を比較し、Mann-Whitneyの検定を用い、危険率5%での有意差を求めた。
【結果】A群の筋硬度の平均は運動前で55.9±4.5、運動後は57.6±5.1、筋伸張後は56.6±4.5で改善がみられた。B群の筋硬度の平均は運動前で55.1±3.2、運動後は57.5±4.7、筋伸張後は56.8±3.8で改善がみられた。C群の筋硬度の平均は運動前で54.1±1.8、運動後は56.0±2.8、筋伸張後は56.5±1.6で悪化した。
また、筋伸張後の筋硬度の改善におけるA・B群間、A・C群間、B・C群間での有意差は認められなかった。
【まとめ】今回、筋硬度の平均において、C群では筋伸張後に筋硬度が高くなるというA・B群とは異なる結果となった。これは、C群に対し、最大の筋伸張を行ったことと、辻下らの研究により、Tilt tableに比べ徒手による伸張運動が対象者に強い疼痛を与えたことが推測され、そのため、反射的筋収縮が発生したものと考えられた。
また、A群とB群を比較した場合、両群とも改善を示したが、最も強制力の弱いA群で僅かではあるが、より大きな改善を認めた。実験前、C群の様な強すぎる強制力は反射的筋収縮により、結果的に悪化することは予測できた。しかし、一般に成人男性の正常可動域と考えられる背屈20°でも反射的筋緊張が健常若年者においても出現し、阻害因子となっていることが考えられた。
今後、更に誤差の少ない方法を用い、体表温度との関連を含め報告する予定である。