理学療法学Supplement
Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 351
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骨・関節系理学療法
当院における転移性脊椎腫瘍術後患者の現状と問題点
*皮居 達彦藤本 智久西野 陽子中島 正博土井 暁子森本 洋史田中 正道青木 康彰
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抄録
【はじめに】近年、癌患者の増加に伴い、理学療法が必要な患者も増加している。今回、転移性脊椎腫瘍術後患者の理学療法実施上の留意点を見い出す目的で、現状を調査したので報告する。
【方法】2001年1月~2004年8月までに転移性脊椎腫瘍術後、当科紹介となった21名を対象とした。手術は疼痛緩和、神経障害の改善、脊柱再建などの目的で実施した。原発巣は肺3、胃1、肝2、腎3、大腸4、甲状腺1、乳線3、前立腺2、不明2名。障害部位は頚椎2、胸椎15、腰椎4名。手術時平均年齢は60.1歳。調査項目は本人への告知、疼痛コントロール、原発手術の有無、多臓器転移の有無、治療内容、平均年齢、入院時Frankel分類、平均入院期間、理学療法実施率、入院・最高・退院時移動能力、社会資源の利用の有無、介護の人数である。これら項目を退院した14名(A群)と非退院(死亡)の7名(B群)に分け比較検討した。またA群、B群の移動能力の変化も比較した。理学療法は自宅退院を目標に問題指向的な視点から寝たきりなら座位、座位可能であれば立位、立位可能であれば歩行へと術後早期より実施した。統計学的検討にはt検定とMann-WhitneyのU検定、カイ二乗検定を用いた。
【結果及び考察】A群がB群に比べ告知している傾向があり、麻薬を使用していない傾向があった。移動能力は最高・退院時の移動能力で2群間に有意差を認めた。移動能力の変化ではA群で退院時には有意に改善していたのに対し、B群では退院時には有意に悪化していた。A群は告知されることにより治療方針を納得した上で自宅退院に前向きに取り組むことができたと考える。さらに術後移動能力が高いレベルに改善し、退院時まで機能を維持したことが自宅退院に結びついたと考える。B群では疼痛に対し麻薬を使用する傾向にあり、極めて強い痛みが活動性を制限していたと考えられた。それに関連して術後移動能力も低く改善を認めず、結果的に全例全身状態が悪化しており、死亡の転帰となった。術後移動能力が低い患者も、早期より医療スタッフだけでなく家族と共に方向性を明確にし、自宅退院を希望する場合は社会資源の利用等、適切な対応をしていく必要があると考えられた。転移性脊椎腫瘍患者は病状が多様であり、手術以外の治療内容によっても全身状態が大きく左右し生命予後も不良である。機能障害の改善に固執していると適切な退院時期を逃してしまうとも限らない。限られた時間内で目標を達成するには、機能障害の改善という問題指向的な視点よりも目標指向的な視点で患者をとらえる必要があると考える。
【まとめ】転移性脊椎腫瘍術後患者の理学療法実施上の留意点としては、移動能力の低い場合、目標指向的な視点で患者をとらえ、家族と共に方向性を明確にすることが大切である。
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© 2005 日本理学療法士協会
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