抄録
【はじめに】人工関節全置換術を施行されることにより、術前後では生体の軸位の相対的な位置関係の変化により重心の位置が変わり、転倒の危険性が高くなると予想される。そこで人工関節全置換術を施行された患者の術前、術後で重心位置とその経時的な変化を測定し検討したので報告する。
【対象と方法】対象は、当院において人工股関節全置換術(以下THA群)および人工膝関節全置換術(以下TKA群)の適応となった症例とした。症例数はTHA群9名(男性1名、女性8名)、TKA群5名(女性5名)であった。平均年齢はTHA群56.9歳(50歳~68歳)、TKA群66.0歳(54歳~74歳)であった。
術前、術後2週及び4週に静止時の重心位置を測定した。測定にはアニマ社製ツイングラビコーダG5500を使用し、日本平衡神経学会による重心動揺検査の基準をもとに実施した。重心位置の測定方法はグラビコーダーの中心点に第1趾先端と踵の後端を結んだ線の中点を置き、さらに両脚を平行に10cm開いた状態でグラビコーダー上に起立させた。5m先にある目線の高さの目標物を注視させ、裸足で自然立位を取りその姿勢を1分間保持した。測定値は振幅確率密度分布解析を行い、前後左右への動揺の片寄りを判定した。THA群、TKA群それぞれにおいて重心位置座標の平均値を求め、有意差検定を行なった。
【結果】平均重心位置座標(X,Y)は、THA群では術前は(0.42±1.54,-1.24±1.50)、術後2週は(2.10±2.07,-1.05±1.35)、術後4週は(-0.20±1.67,-1.05±1.59)であった。TKA群では術前は(1.11±1.18,0.07±1.39),術後2週は(1.60±1.35,-0.25±0.53),術後4週は(0.89±1.24,-0.07±0.67)であった。
平均重心位置の経時的変化は、THA群では術前と術後2週の間、術後2週と4週の間でX軸方向への有意な変化を認めた(p<0.05,p<0.01)。
TKA群ではどの時期の間においても有意差を認めなかった。
【考察】今回の結果から、THA群の平均重心位置は術前から術後2週の間では非手術側に移動した。これは手術側の疼痛のために筋力を発揮できず非手術側下肢で体重の大半を支えなければならない状況となっているために重心位置が非手術側に偏位したと考えた。次に、THA群の平均重心位置は術後2週から4週の間では今度は逆に手術側に移動した。これは手術側の疼痛が軽減して筋力が発揮できるようになったために手術側下肢への荷重が増加したのではないかと考えた。したがって、THAでは術後2週での全荷重は危険を伴い、術後4週での全荷重が安全であると思われた。TKA群については重心位置の変化は認めなかったので、術後早期からの全荷重が可能であると思われた。