抄録
【はじめに】今回,器質的変性を伴い数年来頸部痛を持続する1症例に対し,臨床的推論に基づく段階的治療を試行し7回の治療で頸部痛症状が消失したのでその対応と考察を報告する.
【症例紹介】本発表に同意を得た29歳,男性,理学療法学生.大学時代ラグビーで頸部や肩甲帯への外傷歴を持ち,平成14年より聴講時坐位保持の機会が増え右頸部に鈍重感が出現した.また,長時間自動車運転時に稀に右腋窩部から右前腕尺側部(Th1~3領域)に痺れを感じていた.近医受診し,頸肩腕症候群と診断されるが,ストレッチ指導のみで症状軽減は得られず.平成16年より右頸部の鈍重痛VAS6~7/10に加え,1回/日は頸部がひっかかり動かせなくなり(以下stuck),平成16年6月12日当院整形外科受診し頸椎症性神経根症と診断され,翌週6月19日より理学療法を開始した.初回所見では前頭位姿勢を認めず.第1・2肋骨の前方変位,右肩甲帯下制位,頸部自動運動では左側屈制限(25°)・前屈時に後頸部筋群攣縮,特に右頸部筋群の過緊張を認めた.画像所見は,MRIにてC6/7後方に軽度の椎間板膨隆とTh1/2左側・Th2/3両側の後外方に骨棘形成を認めた.X線動態撮影では前屈時C5/6過可動性とその上下の椎間に可動制限を疑う所見を認めた.
【理学療法経過】6月19日(初回)と6月26日(2回目)については筋・筋膜の治療を優先的に行い,右頸部の鈍重痛VAS3~4/10,左側屈可動域が30°に改善した.7月17日(3回目),7月24日(4回目)より,ある程度筋の過緊張が軽減した状態で,C3/4/5・C6/7領域の椎間関節に対し可動性を促し,左側屈可動域が40°に改善し,stuckは1~2回/週の頻度に軽減した.8月7日(5回目)より,頸部への治療を継続しつつ,全身的に再評価し,腰椎骨盤帯の不安定性を認めたため安定化を図った.8月14日(6回目)には,右頸部の鈍重痛やstuckなどの頸部症状は消失し,左側屈可動域は45°に改善した.8月28日(7回目)に頸部筋群のストレッチや腰部骨盤帯の安定化トレーニング方法を再度助言し,症状増悪時には来院するよう勧め,理学療法終了とした.
【考察】本症例は根底に下位頸椎・上位胸椎に器質的変性を伴う不安定性を有しており,数年の間に坐位保持機会が増え,腰部骨盤帯の不安定性と共同的に頸部の過剰筋緊張を誘発させ,頸部症状を引き起こしていたと考えられる.
器質的変性を伴う状態であっても,理学療法において無症状にまで改善する事は可能であった.しかし,根本治療には至らず,症状再発の可能性が高いと考える.このような症例に対し,症状出現となる徴候の理解を促し,無症状の段階から所見に対して自己管理を促すことが症状再発と器質的変性の進行を予防できると推察される.