抄録
【目的】
この研究の目的は、人工膝関節全置換術(TKA)後の膝伸展不全と筋活動との関係を明らかにすることである。
【対象と方法】
2003年8月から2004年5月までの間に、市立吹田市民病院でTKAが実施され、筋電図学的検査に同意を得ることのできた、21例26膝、平均年齢73.0±7.71歳を対象とした。術後3週で膝伸展不全のある者を伸展不全(+)群(15膝)、無い者を伸展不全(-)群(11膝)の2群に分け、膝伸展運動時における膝関節周囲筋活動の比較を行った。また、対象者のうち術前の筋電図学的検査にも同意を得ることのできた6例6膝については、術前・術後の筋活動の経時的変化についての調査も行った。筋活動の計測にはNORAXON社製MyoSysyem1200を使用し、表面電極による双極誘導法にて筋活動を観察した。サンプリング周波数は1000Hzとし、電極間距離は2cmとした。検査筋は、大腿直筋、内側広筋、縫工筋、大腿筋膜張筋、大腿二頭筋長頭、半腱様筋、腓腹筋外側頭、腓腹筋内側頭とした。運動課題は、下垂坐位(膝関節80°屈曲位)からの膝関節伸展運動とした。運動中の各筋の平均筋活動量について、最大随意収縮時の筋活動量(以下MVC)で正規化した値(%MVC)を用いて検討を行った。NORAXON社製Myovideoシステムにより、筋電波形とビデオ画像を同期させ、筋電図における膝関節伸展運動を同定した。統計学的分析については、伸展不全(+)群と伸展不全(-)群の間で、各筋の%MVCについて、t検定を用いて比較を行った。
【結果】
伸展不全(-)群に比べて伸展不全(+)群で、縫工筋、大腿筋膜張筋の筋活動量が有意に増加していた。それ以外の筋では、両群間に統計学的な差はなかった。経時的変化を観察した6膝における術前・術後の筋活動の変化については、そのうち5膝については術前から縫工筋、大腿筋膜張筋の過剰な筋活動を示し、術後3週時においても過剰活動は持続し、伸展不全も呈した。
【考察】
膝伸展不全を呈する膝では、大腿筋膜張筋、縫工筋の過剰な筋活動を示し、特に縫工筋の過剰活動が特徴的であることが示された。両筋の過剰活動は術前から存在し、手術によるアライメントの正常化後も残存していた。その過剰活動が膝伸展不全出現の一要因になると考えられた。この結果は、構築学的な関節再建だけでは、術前の異常な筋活動パターンはすぐには改善しないことを意味しており、術前の状態を考慮した術後の筋活動パターン改善に対する早期からの理学療法的介入が重要であることを示唆している。術前の両筋の過剰活動の原因については、術前の膝関節アライメント、および運動パターンの影響が推察された。術後早期の膝伸展不全改善に対する理学療法として、縫工筋、大腿筋膜張筋の活動を抑制した膝伸展時の筋活動パターンの再教育が重要であると考えられた。