抄録
【はじめに】先行研究によると、要介護2以上では脳卒中の占める割合が高く、要支援・要介護1では関節疾患の占める割合が高いと報告されている。関節疾患で特に問題となる症状は痛みであり、これは身体的側面だけではなく精神的側面にも影響を与えやすい要因である。しかし実際にどのくらいの割合の高齢者が痛みを有し、痛みの有無が身体的・精神的側面に対してどのように影響を与えるのかは明らかではない。そこで身体的側面との関わりが強い日常生活関連動作(IADL)および精神的側面との関わりが強い抑うつ兆候に対する痛みの影響について縦断的に検討した。
【対象と方法】1992年にN村で施行した調査参加者748名のうち、1998年まで追跡調査が可能であった461名を対象とした。性別は男性178名、女性283名、平均年齢は70.5歳であった。なおこの調査は老化に関する長期追跡研究として行ったものであり、65歳以上の地域住民全員の87.8%が参加した研究である。痛みは有無と部位について評価し、IADLは老研式手段的能力評価(IADLスコア)、抑うつ兆候は老人用うつ尺度短縮版(SGDSスコア)を使用した。分析方法として、まず92年の痛みの状況を調査し、性別、年齢、経時的なIADLおよびSGDSスコアとの関連について単変量的に分析した。次に経時的なIADLおよびSGDSスコアを従属変数、性別・年齢・92年膝痛・92年腰痛・定期的な散歩・定期的な運動・最終学歴・92年IADLスコア・92年SGDSスコアを独立変数とした重回帰モデルを作成し、その中での92年痛みの関連の強さを検討した。統計解析にはSPSSver12.0Jを用い、有意水準は5%とした。
【結果と考察】92年に体の痛みを有していた者は311名(67.4%)であり、このうち約8割が膝または腰痛であった。痛みを有する割合は女性が有意に高く、年齢層の違いに差は見られなかった。IADLの経時的推移をみると、92年から94年までに4.79点から4.67点と有意に低下し、98年に4.4点と再び有意に低下した。部位別比較では、98年において腰痛の4.61点に対し、膝痛では4.09点と有意に低下していたが、他の年度に差は見られなかった。SGDSでは92年の3.02点から94年の3.67点まで有意に上昇し、それ以降は一定であった。部位別比較ではいずれの年度においても膝・腰痛重複例が最も高値を示し、92年と94年では痛みなしとの間に、96年と98年では他のすべての群との間に有意差を認めた。重回帰分析により痛みが最終選択された年度は、IADLでは98年の腰痛のみであったが、SGDSでは94年以降は常に膝痛が選択された。
以上より高齢者が将来的に良好な生活機能を維持するためには、IADLの低下や抑うつ兆候の出現が見られていない早期から痛みに対する介入を行うことが重要であると考えられた。