抄録
【目的】慢性腰痛患者は我々が日常的に経験することの多い疾患であり,その治療としては物理療法,温熱療法など従来行われている治療方法を選択することが多い.本研究目的は,慢性腰痛患者に対しSLING EXERCISE THERAPY(SET),牽引器を使用し,その効果判定をFlexion Relaxation Phenomenon(FRP)を中心に表面筋電図学的に評価することである.
【方法・対象】治療には腰部牽引を選択した.SETではNordisk Terapi社製TERAPI MASTERを使用し下肢を股関節屈曲,膝関節屈曲において10分間の持続牽引を施行した.従来型牽引器での治療はM社製を用い10分間(牽引力:体重の25%,30秒牽引,10秒休止)の間歇牽引を施行した.また,運動課題として無負荷,5kg重錘を両手把持の2種類の体幹前屈運動を行わせた.効果判定は,表面筋電計Noraxon社製Myosystem1200,Myovideoにて最長筋,多裂筋,大殿筋,内側ハムストリングス(ハムスト)の筋活動を導出し,各治療前後でFRPの有無,活動様式を比較検討した.FRPとは体幹屈曲運動時に脊柱起立筋の筋活動がある角度から消失する現象である.対象は,本研究の趣旨に同意を得られた慢性腰痛患者2名とした.
【症例1】39歳男性,身長174cm,体重66kg,BMI 21.8,L4-5・L5-S1椎間板ヘルニアと診断され10年経過.牽引前では無負荷,5kg負荷とも最長筋,多裂筋,ハムストのFRP欠如,大殿筋の筋活動低下を認めた.間歇牽引後との比較ではFRP欠如,筋活動に大きな変化は認められなかった.一方,SET後の比較においては無負荷で最長筋,多裂筋,ハムストのFRPが出現し活動様式も正常に近い形となり,5kg負荷においても最長筋にFRPの出現を認めた.
【症例2】30歳男性,身長168cm,体重71kg,BMI 25.1,筋筋膜性腰痛症と診断され10年経過.牽引前では無負荷,5kg負荷とも最長筋のFRPを認めるものの,多裂筋のFRP欠如,大殿筋の筋活動低下を認めた.間歇牽引後では無負荷,5kg負荷とも最長筋のFRPが欠如し,その他の筋においては活動に大きな変化は認められなかった.SET後では無負荷,5kg負荷とも多裂筋にFRPが出現し,最長筋の遠心性収縮時(体幹屈曲)と求心性収縮(体幹伸展)の比較において活動比の正常化を認めた.
【考察】SETではRelaxation効果が期待できるとの報告から今回,慢性腰痛患者に対し牽引を施行した.結果,運動時の最長筋,多裂筋,ハムストにおいてFRPが出現し活動様式が正常化したことからSETにおけるRelaxation効果が現れたと考える.今後,他疾患,症例数の増加,SETにおける筋電図学的検証,臨床場面での検討を重ねることで,慢性腰痛患者治療の一手段になり得ると考える.