抄録
【目的】 理学療法では,骨折や手術後の患者を対象とすることは多い。しかしながら,ギプス固定中や手術直後には患部への直接的な治療が困難であり,早期に十分な治療が行われていないのが現状である。そこで本研究では,脊髄神経後枝(後枝)支配の多裂筋に振動刺激を与え,遠隔部にある同じ脊髄神経分節の脊髄神経前枝(前枝)支配筋および関節に及ぼす影響を検討し,さらに刺激側だけでなく,対側の前枝支配筋と関節についても同時に調べた。
【対象と方法】 足関節にADL上問題となる関節可動域(ROM)制限のない健常成人14名(男性8名,女性6名,平均年齢22.0±7.0歳)を対象とした。本研究はすべての対象者に実験内容を説明し,同意を得たうえで実施した。被験者を腹臥位とし,右第4腰椎から第2仙椎レベルの多裂筋に振動刺激を20分間与えた。振動刺激には周波数25Hz,振幅9mmのMyoVib(マイオセラピー研究所)を用いた。刺激前後の10分間に被験者を臥位とし,足関節のROMおよび下腿筋の筋硬度と圧痛閾値を測定した。ROM測定では,被験者の腓骨頭と外果を結ぶ線を固定軸とし,第5中足骨の外側面を移動軸としてあらかじめマーキングし,足関節の他動的な背屈と底屈の最大角度をデジタルカメラで撮影後,コンピューターに取り込み,角度を計測した。筋硬度はPEK-1(井元製作所),圧痛閾値はF.P.METER(京都疼痛研究所)を用いて,前脛骨筋および腓腹筋内側頭と外側頭の各筋腹中央でそれぞれ3回ずつ測定し,平均値を測定値とした。刺激前後のROM,筋硬度,圧痛閾値の各平均値をt検定で統計処理した。
【結果】 刺激後,ROMは背屈,底屈ともに刺激側と非刺激側の両側で有意に増加し(刺激側p<0.05,非刺激側p<0.1),筋硬度は有意に減少した(p<0.05,ただし刺激側の前脛骨筋と腓腹筋内側頭のみp<0.1)。圧痛閾値には有意な差は認められなかった。
【考察】 今回の結果より,後枝支配筋へ振動刺激を与えることで,遠隔部にある同分節の前枝支配筋の筋硬度が低下し,足関節のROMが拡大した。また,一側の後枝支配筋への刺激によって,同側だけでなく,対側の前枝支配筋や関節にも影響することが確認された。これらの変化は後枝支配筋と前枝支配筋や関節が反射を介して機能的に関連することを示唆するものである。これらのことから,固定や手術直後に四肢の関節や筋へ直接アプローチすることが困難な場合でも,後枝支配の限局された脊柱筋に振動刺激を与えることによって,同側だけでなく対側をも含めた遠隔部の関節や筋に早期から治療効果をもたらしうることが示唆された。今後はさらに対象者を増やすとともに,四肢関節に障害を有する患者においても検討を加えていく必要がある。