抄録
【はじめに】冠動脈バイパス術(以下CABG)後、冠動脈の狭窄は改善されるものの、冠動脈硬化の危険因子は残存することが予想され、理学療法士はこれらの病態を把握して退院後の生活指導等を行なう必要がある。危険因子に関して、高脂血症や危険因子数と冠動脈疾患の発症との関連性が注目されている。今回はCABGを施行された症例を対象に、術前の高脂血症の合併率、危険因子数と冠動脈硬化の進行度の関連性について検討し、術後の生活指導を中心に考察した。
【対象】待機的にCABGが施行された52名(男性42名、女性10名、平均年齢66.7±9.4歳)。
【方法】冠動脈硬化の危険因子として高脂血症、糖尿病、高血圧、肥満、喫煙を調査した。高脂血症は、TC、TG、LDL-C、HDL-Cについて、糖尿病は空腹時血糖値、HbA1Cについて調査を行ない、術前3ヶ月の間に最も異常を示した値を用いて検討を行った。また、高血圧の判定は、術前に医師より診断を受けていたものとし、肥満はBMI 25以上とした。検討事項は、まず高脂血症の合併率及び各血清脂質値の異常頻度、その他の危険因子(糖尿病、高血圧、肥満、喫煙)の合併率とした。また、CABG前の心臓カテーテル検査にてAHA分類15区画中75%以上の狭窄を認めた数(狭窄部数)を冠動脈硬化の進行度の指標とし、危険因子数と狭窄部数の関連性についても検討した。統計学的検定にはSpearmanの順位相関係数を用い危険率5%未満を優位水準とした。
【結果】高脂血症の合併率は80.8%であり、高TG血症が46.1%と最も多く、高LDL-C血症は38.4%であった。また、その他の危険因子合併率は糖尿病86.5%、高血圧53.8%、肥満40.4%、喫煙21.2%であった。危険因子数と狭窄部数は相関係数が0.385(P=0.0060)で有意な相関をみとめた。
【考察】大規模研究であるJ-LITやPost-CABG Trialにおいて術前の冠動脈硬化及び、術後静脈グラフト再狭窄の危険因子として高脂血症に着目した研究が多数報告されている。今回の調査においてもCABG前に高脂血症の合併率は80.8%と高く、特に高TG血症及び高LDL血症が多かった。適切な運動を指導することにより中性脂肪を燃焼し、リポ蛋白リパーゼの活性化によりTGの低下、HDL-Cの上昇が期待でき、食事も含めて生活指導を行うことの重要性を感じた。また、冠動脈硬化は複数の危険因子を併せ持つと加速的に動脈硬化の発生が増加することが報告されており、今回の結果においても危険因子数が多いと術前の狭窄部数が増え冠動脈硬化が進行している結果となった。高インスリン血症を基盤としたシンドロームXや肥満を基盤とした死の四重奏に示されるように各危険因子の因果関係について各個人に適した指導を行なう必要があるものと考えられた。