抄録
【はじめに】 寝たきりや痴呆に至るハイリスクとして閉じこもりが注目されている。閉じこもりと寝たきりとの関連は、脳卒中などの障害を有する高齢者をモデルとして研究されてきたが、介護予防の観点から一般の高齢者を対象として閉じこもりとADL低下の関連について研究が進められている。しかし、ADLを構成するどの動作が低下の引き金となっているかといったADL低下の特性について検討はなされていない。そこで本調査研究は、在宅で生活する後期高齢者の閉じこもりに関する1年半後の転帰についてコホート調査により検討するとともに、ADL低下の特徴を把握することを目的とした。
【方法】 調査対象者はO県Y町に在住する65歳以上の高齢者全員(入院、入所者を除く)とした。2002年12月に初回調査(対象1987名/回収1901名)、2004年6月に第二回目調査(回収1952名)を、無記名自記入式の質問紙を用い保健師等による留め置き法にて実施した。内容は、性別、年齢、外出頻度、疾患既往歴、要介護度、日常生活活動(Barthel Index:BI)で構成した。「外出頻度が週1回程度以下のもの」を閉じこもりと判定した。
まず、閉じこもりの発生頻度を横断データを用いて算出し、次に、縦断データを用いて閉じこもり継続、非閉じこもりへ改善、閉じこもりへ移行、非閉じこもり維持の割合を算出した。さらに、1年半の間継続して閉じこもり状態であった群に着目し、ADLのどの動作が低下しているのかについて把握した。以上の解析には「SPSS 11.5 J for Windows」を使用した。
【結果と考察】 解析対象は、年齢が75歳以上で、性別、閉じこもり判定項目、BIに欠損値がないものを選択し、さらに疾患(脳卒中、骨折、慢性関節リウマチ、パーキンソン氏病)既往者を除外した231名とした。閉じこもり発生頻度を算出したところ、初回調査時点では53名(22.9%)、第二回目調査時点では52名(22.5%)であった。初回調査時に閉じこもりで1年半後も閉じこもり状態を継続したものは26名(11.3%)、閉じこもりから非閉じこもりへ改善したものは27名(11.7%)、非閉じこもりから閉じこもりへと悪化したものは26名(11.3%)、非閉じこもりを維持したものは152名(65.8%)であった。閉じこもり継続群においてADL得点が低下したものの割合が最も高く、「移動動作」(p<0.05)と「階段昇降」(p<0.10)が有意に低下していた。以上の結果から、在宅後期高齢者において閉じこもり状態が継続されることにより、移動動作や階段昇降といった基本動作能力が低下することが示唆された。基本動作能力が他のADL動作に比して低下する結果を得たが、今後長期わたるADLの低下を明らかにしていくことが課題である。