抄録
【目的】
我々は,第40回日本理学療法士学術大会において脳卒中片麻痺患者を対象に,非麻痺側下肢を可及的に速く挙上する片脚挙上動作時の動作反応時間(以下,動作反応時間)と歩行能力との関連性を検討し,1)脳卒中片麻痺患者では動作反応時間が遅延する,2)動作反応時間を意識したexの必要性がある,などの知見を得た.しかし,動作反応時間に着目した理学療法の介入結果に関する報告はない.
本報告の目的は,慢性期脳卒中片麻痺患者に対し,動作反応時間を向上することを意識したexを通常の理学療法に追加し,慢性期脳卒中片麻痺患者の歩行能力に与える影響を検討することである.
【対象と方法】
対象は,本研究を開始する2週間前より,10m歩行時間,努力性10m歩行時間,Timed Up and Go test,動作反応時間を計測し,時間が有意に変化しなかった慢性期脳卒中片麻痺患者 10名,男性6名・女性4名.平均年齢は62.9±15.4歳,FIMの歩行項目6.発症からの期間は51.3±57.1ヶ月(8~180ヶ月)とした.また,Brunnstrom StageはVが3名・IVが6名・IIIが1名であった.今回の対象者は,表在感覚・深部感覚共に全対象者正常だった.
対象者には,通常理学療法に加え3分間の片脚挙上動作exを実施させた.片脚挙上動作の実施期間は2週間とし,平均実施回数は3.7回であった.片脚挙上動作exは,歩隔を肩幅とし,非麻痺側下肢に最大荷重した立位から,ランダムな音刺激に合わせて非麻痺側下肢を可及的に速く挙上してもらうこととした.片脚挙上動作ex実施前とex2週間継続後,それぞれの歩行時間および動作反応時間を測定し,ex実施前とex2週間継続後,それぞれの動作反応時間および歩行時間を比較検討した.
統計処理にはWilcoxon t-testを用い,有意水準は5%未満とした.
【結果と考察】
毎回の片脚挙上動作ex実施前,ex実施直後で脈拍・血圧測定を実施し,変化のないことを確認した.
ex実施前とex2週間継続後それぞれの動作反応時間と歩行速度を比較検討した結果,10m歩行時間がp=0.029,努力性10m歩行時間がp=0.009,TUG p=0.037,動作反応時間 p=0.013と,ともに有意な向上を認めた.
以上の結果,歩行速度の改善が乏しい慢性期脳卒中片麻痺患者において,動作反応時間の向上が歩行能力に反映することが示された.歩行時間・動作反応時間が向上した要因として,麻痺側方向への重心移動時におけるmotor timeの改善,及び麻痺側下肢の支持能力向上が,原因しているものと考る.
今後は,動作反応時間の向上限界の確認・動作反応時間向上の継続性と,さらに動作反応時間を向上させることで歩行自立度に及ぼす影響,心理面・motivationに与える影響の確認が必要と思われる.