抄録
【はじめに】大腿骨頸部骨折のリハビリテーション目的は動作能力障害を改善し骨折前の機能に回復させることであるが、同時に再転倒・再骨折の予防も重要とされている。大腿骨頸部骨折の既往のある高齢者は再転倒のリスクが高くなるとされ、転倒のハイリスクグループに位置付けられている。そして再骨折が生じた場合には更なる身体機能の低下をきたし、動作能力や社会的自立に重大な影響を与えることが危惧されている。
【目的】今回、再転倒予防の観点から退院時のバランス能力について調査した。大腿骨頚部骨折既往のない地域高齢者と比較し、骨折・手術による影響について検討した。
【対象】2004年6月から2005年4月の間に大腿骨頸部骨折を受傷、観血的治療を受けた女性高齢者9名(平均年齢76.4±7.4歳)を対象とした。在院日数は平均36.2±10.2日、手術までの待機日数は平均5.8±2.5日であった。いずれも術後翌日から全荷重許可され歩行可能となって自宅退院し、MMSE23点以上の者とした。以上を骨折群と設定し、骨折群と年齢・性別を合わせた大腿骨頸部骨折既往のない地域高齢者9名(平均年齢76.1±7.0歳)を非骨折群とした。非骨折群は神経疾患の既往がない者でADLが自立し、活動レベルがsix-point scaleの3(週に何度か歩行または屋外での活動を行っている)以上とした。
【方法】骨折群と非骨折群をTimed Up&Go Test (TUG)、片脚立位、Lateral Reach(LR)について比較した。各2回ずつ測定を行い、TUGは最小値をデータとした。片脚立位、LRは最大値をデータとし、骨折群は患側、健側とも測定した。非骨折群も左右両側を測定し骨折群との比較のため左右の平均値をデータとした。骨折群の測定は退院時に行った。統計処理にはDr SPSSII for WindowsのMann-Whitney検定を用い、有意水準は5%未満とした。
【結果】TUGは骨折群で17.4±5.0秒、非骨折群で7.0±1.1秒であり骨折群で著明に低下していた(<0.001)。患側片脚立位でも骨折群は0.7±0.8秒と短く、非骨折群の13.3±12.8秒に比べ有意に低下していた(<0.001)。LRでは健側方向で骨折群14.7±3.3cm、非骨折群19.5±5.4cmと有意差を認めた(<0.05)。健側片脚立位とLR患側方向においても骨折群で低下傾向にあった。
【考察】大腿骨頸部骨折の再骨折は8%が1年以内に発生するとされている。歩行可能となって自宅退院した大腿骨頚部骨折患者においてもバランス能力は非骨折者に比べて著しく低下し、転倒リスクが高くなっていることが示唆された。再転倒予防の観点から大腿骨頚部骨折のリハビリテーションにおいては、下肢筋力増強や歩行能力向上に加え、重心移動に着目したバランス能力向上を視野に入れたプログラムを取り入れることが望ましいと考えられる。今後は、プログラムの立案とその効果についても検証していきたい。